第48話 奴隷解放編~ドキドキの野営(中盤)

「少しお待ちになって、説明が必要ですわよ。諸々すっ飛ばしていきなり夕食の準備を始めないでくださいますか」

「そうよレイチェル様にきちんと説明しなさいよ」



はぁ。やっぱそうなるよね。仕方ないから宿屋の紹介風に説明するとしよう。

「入口を入りまして、正面が寝室となっております。スペースの問題もございますので二段ベッドを二つ並べた簡易な作りですが、寝心地は当宿とうやど管理人である私が保証いたします。次に左手に化粧室と浴室が並んでおりますのでどうぞご利用ください。

右手の扉を入るとキッチンと食堂が一緒になったDK(ダイニングキチン)となっております。本日は屋外での調理及び食事となりますので今日の所はご利用いただきません。」

説明もそこそこに伯爵令嬢がずかずかと正面の扉を開けキョロキョロ中を見渡すと、すぐさま大声を上げた。


「ラングどういう事かしら、ベッドの数が足りませんわね。」

「あの、レイチェル様、ここは今回参加するパーティーメンバーの宿泊のために用意させていただいておりますので、付き添いの上級生はご自分でテントを張るなりなんなりなされば良いのではないかと。」

「嫌です。私達もここに泊まります。それともか弱い私達を獣が徘徊はいかいするような屋外に放り出すとでもおっしゃいますの?」

「いえいえ。実習規則に上級生の野営のお世話までするとは一言も書いてませんでしたが?」

「上級生ではなく私のお世話をなさいと申しております」

なんか滅茶苦茶な事を言い出したぞこのご令嬢は。

付き添いの上級生と言うのは課題に挑む下級生の安全を守り、困った時には陰になり日なたになりサポートするものだと思っていたのだが、俺の勘違いだったのだろうか?

言い出したら聞かない彼女の事だ、四の五の言わずに従う以外の選択肢はないのだろう。


そこでオイラは代案を出すことにした。

「旧モデルのコンテナ~」やけっぱちになったオイラが猫型ロボット風に呟くと、

今度はわ~~という歓声とともに上級生達から拍手が上がった。


すぐさま中を確認したご令嬢は

「設備は不十分ですが仕方がありません、こちらで我慢して差し上げましょう。浴室はみんなで順番に使用すれば問題ありませんわね。あなた達もよろしいですね」

「「はい、レイチェル様」」



「ところでラング、何故このような大きな物を二つも持ってきたのかしら?」

「それはですね、お嬢様たちと同じ屋根の下でやすむというのは体裁が悪いので僕がこちらに泊まる予定でした。自分の準備は後でいいと思ったので、夕食の支度が終わったら出そうかと。」

「そうでしたか。ではラングあなたは私達と一緒に泊まりなさい」

「いえ、こちらのコンテナだと間仕切り壁がなく雑魚寝状態になってしまうので、それはさすがにまずいですから、あちらの食堂にでも泊まろうかと思います。」

「その必要はございません。私達と一緒に夜を明かせば良いのです。わかりましたね。」


「はい」


と、ここで成り行きを見守っていたお嬢が割って入ってきた。

「レイチェル様さすがにそれはよくないと思います。ラング君は私達と一緒に泊まります」

「はい」

「横から口を挟まないでくださるかしら。ラングは私達と一緒ですね?」

「はい」


「「どっちなの(です)?」」


本当に困った。誰か正解を教えてくれないか?

そんな悩める子羊を置き去りにしたまま話は進む。


「エマ聞き分けなさい。もともとラングが使用する予定だったコンテナを私達も使用させていただくのですから、私達と一緒に泊まるのが筋というもの」

「そんなのはダメです。隣同士で布団を並べるなんて、まるで同衾どうきんみたいじゃないですか。万一何かあったら・・・」

「ラングあなた私に何かなさいますの?」


「ふぇっ?滅相もございません。何にもしません!」

「あら、何もしませんの?」

「何もしません!」

「なら決まりね」


レイチェル様、残念そうな顔は止めてね。

こうしてオイラは上級生たちと一つ屋根の下で夜を明かす事となった。

どうしてこうなるのよ。

ラッキーすけべのフラグが立った・・・訳じゃないよね?



思わぬ出来事に時間をとられてしまったが、頭を切り替えよう。

こうして今度こそ料理の下ごしらえを始めたのだ。



今日のために用意したコンロセットは火じゃなく熱で温めるタイプだ。トッププレートに鍋やフライパンを温めるヒーターが2か所、グリルが1か所となっている。

本格始動した魔道具製造課による新製品の初お披露目だ!



ちなみに今回調理する食材は今日現地で調達した物も含め、野営地の担当職員のチェックを受けている。その際用いる調味料その他口に入る一切についても確認してもらい、合格した物のみを使用してよいという規則なのだ。

恐らく生徒の安全を考慮しての事なのだろう。

俺は念のため提出用の料理について幾つか質問を投げかけてみた。

その結果、TP5の課題はあくまで本実習地で調達した食材を使用するという事であって、今日調達した食材のみで料理するという意味ではない事が確認できた。

俺のちょっとした不安はこれで解消だ。



ぐつぐつ煮える大なべから湯気が立ち、完成した料理がテーブルの上に並べられている。匂いに釣られたのかレイチェル様が既に席に座りナイフとフォークを両手に握りしめているではないか。姫よあまり焦るでない、料理は逃げも隠れもしないのだから。


だが釣られたのは彼女一人ではなかったようで、レイチェル様の取り巻きもちゃっかりレイチェル様の両隣に陣取っていた。

お嬢やアリッサまでスタンバってるの、おかしくね?

辛うじてオイラを手伝ってくれるのはもはやウルマっちだけとは・・・泣けてくるぜ。


周囲も大変な事になってきたぞ。部外者である他のパーティーやその付き添いの人達がわらわらと集まり始めて、騒がしい事この上ない。

物欲しそうに指をくわえてもあげないからね。


そんな様子にとうとう担当職員まで引き寄せられる始末だ。

だが、丁度いい。呼びに行く手間が省けたってなもんさ。



「これはなんの騒ぎですか?」

「いえ、普通に夕食を作っていたらこうなっちゃいました」

「やはりこの食欲をそそる匂いが原因かしらね」

「多分・・・。」

「わかりました、ついでと言っては何ですが、もし提出用の料理ができてるなら今確認しましょう。」

「はい、お願いします。ではこちらを!」


そう言って担当職員に差し出したのは実習地北東エリアで大量に捕獲した大きな鱒のような魚のムニエルとグリルで焼き上げたアップルパイ。そして大なべから取り分けた「男の大雑把具だくさん鍋」の三種類。

ちなみにこの鍋はイワンさん・スーベさん共作の味噌で味付けしてある。

他にも料理はあるのだが、とりあえずこれで十分だろう。



「この魚料理、濃厚なコクと香りが調和して口の中が旨味と香りで満たされます。生徒たちが見ていなければ思わず美味しい!と大声で叫んでしまう所でした。

次にこの鍋?というお料理ですが、これも素晴らしい。なるほどと言うだけあってこれでもかっていうほどの具材の豊富さ。それを旨味が溶け出したスープと一緒に口に入れると、言葉も忘れて食べ続けてしまいますね。このスープの味付けはいったいどのように?」

「それは味噌という調味料を使っています。」

「味噌?初めて耳にする調味料ですね。このような素晴らしい調味料があったとは知りませんでした。まだまだ私も勉強不足ですね」


質問と感想を織り交ぜながら担当職員は試食を続けた。

そうしてデザートのアップルパイを食べた瞬間に抑えていた何かが弾けた様だ。


「なんと素晴らしい!この美味しさを言葉で表すことはもはや不可能です。不可能ですとも。これまで何度となくこの課題を担当して参りましたが、今日ほど受け持ってよかったと思った事はありません。エクセレントです!」

担当職員は顔を紅潮させ感動に打ち震えている。


騒ぎを聞きつけて観衆は増えるばかりだ。その中には例のいじめグループのリーダの姿もあったが、忌々し気いまいましげなその表情がオイラにとっては一番のご馳走だぜ。


こうして最高評価をもらった俺達はうらやまし気な視線を浴びながら晩餐を楽しんだのだった。

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