第2歩 「男の子」
さて、どうしたものか。
空を見上げる。あぁ青いなぁ。
「(俺の部屋に扉があって、入ったら謎の場所に……か。)」
そう呟きながら振り返る。
うん。俺の後ろには確かに根本のでけぇ大木——そしてまさにその中央に、ぽつんと扉がある。
先ほどみたいな「惹きつけられる感覚」は、もうない。
それよりも、この木、デカすぎね?
根っこは、ジャ⚪︎ニカ学習帳で見たバオバブみたいだ。(こっちは葉がモサモサ生えてるけど。)
そういえば、ロッジがクラスのちょっと大きめの女子を「バオバブ」って呼んでたな。……なんであいつに彼女がいるんだ。あいつはゴミだ。
「よし、とりあえず戻ろう。」
そう決めて、扉の取っ手に手をかける。でこぼことした、冷たい感触。
——嫌な予感がする。
「……待てよ?」
これ、扉をくぐったら、ちゃんと元の場所に戻れるのか?いや、そもそもこの状況が「普通」じゃないんだから、そんな保証はどこにも——
——
——
考えても仕方がない。
再び取っ手を握る。さっきとは違い、もう冷たさは感じない。
扉を開け——
「……ぇ?」
もとの場所に戻ってきた。いや、もとの場所というべきか俺が2度目に扉を潜る前にいた場所に。
「(扉はあるけど戻れない。片道切符?何故。)」
「……は?」
理解が追いつかない。何かの間違いだろ。もう一回開けば——
ガチャ。
「……っ!」
駄目だ。向こうには行けない。
心臓が、ドクン、と跳ねる。嫌な汗が背中を伝う。
なんだよこれ。どういうことだよ。
最初に扉を開けた時の高揚感は、もはや一片もない。代わりにあるのは、圧倒的な不安、後悔、恐怖——
「ねぇキミッ!さっきからぼーっとしてるけど大丈夫?」
突然、後ろから明るい声が飛んできた。
「調子が悪そうに見えたから声をかけたんだけど、大丈夫?」
振り向くとそこには、俺より少し幼なげに見える男の子が立っていた。
少しタレ目のイエローレッドの瞳を見ると何故だか少し落ち着いた。
スィウに思考が戻る。
「(言葉、通じてる……?国は一緒?)」
「……あ、ええと、ありがとうございます。」
やばい、言葉が続かない。
「良かった!ついでと言っては何なんだけど、良かったら案内してほしいな、ラスカの街!」
「ラスカ?(聞いたことない地名、、、!さっき見えた街の名前か。)」
「ずいぶん軽装だから街の人かと思ったけど、ひょっとしてキミも旅人かい?」
「えぇ、まぁ。」
「そっか!僕はちょっとそこの街の人に届け物があってね、何しろラスカってかなりアクセス悪いところにあるだろう?だから僕が頼まれたってわけ!
そうだ!せっかくだし一緒に行こうよ!どうせ数日滞在する予定だろうから色々見て回ろう!2人で新鮮さも楽しさも2倍だ!」
「(まさか……これは願ってもない展開か?)」
「本当ですか?実はここら辺の土地勘がなくて困ってたんです。先ほど呆けていたのも道に迷って途方に暮れていたものですから。」
「へぇ、そうだったんだね!」
「麓に町があったなんて気づかなかった。いやぁーあなたは神様だ!こちらこそ是非ご一緒させていただいてもよろしいですか?」
「もちろんだよ!」
「(よし、この人から色々聞いて何とか食と住を確保したいなぁ)」
「じゃあ行こうか!ラスカの街へ!」
PS.
このタイプの人ならワンチャン今日の分くらいの食と住は分けてくれそうだ。という考えが自分の中に湧いたが、流石に己の図々しさに嫌悪しました。
シィウと異界の扉 ちっぽけな栗の木 @kurinoki0306
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