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第6話
小学5年生の時、父が亡くなった。
闘病生活の末の病死だった。
葬式で母が忙しくしていた時、私はひとり、式場から少し離れた駐車場にいた。泣いているところを人に見られるのが嫌だったからだ。
「何してるの」
いつの間にか私の横にいた一晴おじさんは、そう声をかけてきた。
私は、急いで涙を拭いて、「何も」と答えた。
「飲む?」
おじさんは私に缶コーラを差し出した。
私は首を横に振った。
「嫌い?」
「お母さんに叱られる」
「ん?」
「炭酸飲料、禁止されてるから」
おじさんは、家に遊びに来ている時と同じように笑った。
「竹宮らしいなぁ」
「いいの。別に」
「じゃあ、こうしよう。おじさんはね、お酒が一滴も飲めないんだ。でもね、今日は飲もうと思ってる」
「…」
「普段しないようなことをするんだ。今日なんかうってつけの日だろう。
「…」
「今日だけ、不良になるのさ」
「でも…」
「竹宮には内緒だ」
おじさんは改めて、私の前にコーラを差し出した。
私は受け取ってタブを引いた。飲み口から中を覗くと、黒い液体が、プツプツと小さな音を立てていた。私は缶を口に持っていって、ぐいと一口飲んだ。
薬品臭い強い甘みを感じた後、喉を刺すような刺激を受け、私は一瞬あごを引いた。
「どう?」
「美味しい」
おじさんは、私の頭を丁寧に撫でた。そして、
「泣いてもいいんだからね」
と言った。
私はまた首を横に振った。
「そっか。璃子ちゃんは、お母さんに似てるんだな」
その時、私は胸からせりあがるようなものを感じ、気が付いたときには、げっぷが出ていた。
「ごめんなさい」
私は慌てて手で口をふさいだ。恥ずかしくて、顔が熱くなった。
おじさんは優しく微笑んでから、私の手をつないで、しばらくの間、一緒にいてくれた。
私の初恋だった。
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