第11話 最初で最後のデート
—— 人間としての時間をもらった彼と、一日だけのデート。
—— ずっと続けばいいのに……。
「……え? これって……?」
目の前の彼は、いつもの神秘的なオーラが消え、ただの “普通の青年” に見えた。
金色の瞳も、どこか人間らしい温もりを帯びている。
「今日は ‘特別な日’ だ」
彼は微笑んで、私の手をそっと取る。
「神ではなく、人間として、君と過ごす時間をもらった。
——たった一日だけの ‘普通のデート’ をしよう」
街を歩く。
人混みの中で、私たちはただの恋人同士みたいだった。
「こんなの、夢みたい……」
私はぎゅっと彼の手を握る。
「これが ‘人間の温度’ か……」
彼がつぶやく。
「どう? あたたかい?」
「……ああ。 でも、ちょっと ‘怖い’ かもしれない」
「怖い?」
「このぬくもりが ‘永遠じゃない’ って分かるから」
彼はふっと笑って、私の髪をそっと撫でた。
「……こんな気持ち、初めてだ」
「コーヒーか紅茶、どっちにする?」
「……選べるのか?」
彼は本気で悩んでいた。
「そりゃ、選べるでしょ。人間なんだから!」
「…… ‘どっちが運がいいか’ じゃなくて ‘どっちが好きか’ で選ぶのか」
彼は小さく笑った。
「じゃあ……君が ‘美味しい’ って思う方を」
「え、それって ‘運を私に委ねる’ ってこと?」
「君の ‘選択’ を信じるってことだよ」
彼の瞳が、まっすぐ私を見つめる。
——こんなの、ずるい。
神様じゃなくて、ただの “ひとりの男の人” みたいで。
映画を観て、夜景を見て。
誰もがするような、何気ないデート。
でも、彼にとっては “初めての体験” だった。
「…… ‘運’ を操作しなくても、こんなに楽しいなんてな」
彼は夜空を見上げながら、微笑んだ。
「ねえ……これが ‘普通’ なら、ずっとこのままがいいって思わない?」
「……思うさ。でも、それは ‘叶わない願い’ だ」
「どうして?」
「俺が ‘運の神’ である限り、人間として生きることはできない」
私は思わず、彼の腕をぎゅっとつかんだ。
「じゃあ……もし ‘運の神’ をやめたら?」
彼は、そっと私の手をほどく。
「それは ‘奇跡’ ですら起こせないルールなんだ」
その瞳は、どこまでも優しくて——どこまでも悲しかった。
終電の時間が近づく。
「今日が終わったら、君は ‘神様’ に戻るんだよね」
彼は微笑むだけで、何も言わない。
「……ねえ、 ‘運’ って、どうすれば ‘永遠’ にできるの?」
彼は静かに、私の頬に触れた。
「 ‘運’ は ‘流れるもの’ だ。
だから ‘止める’ ことはできない」
「じゃあ…… ‘この時間’ も?」
「……ああ」
彼の指が、そっと私の涙をぬぐう。
「でも、 ‘今日の奇跡’ は、確かに残る」
「……どこに?」
彼は、私の胸のあたりを軽く叩く。
「ここに。君の ‘心’ に」
「……ずるいよ」
彼は何も言わず、そっと微笑んだ。
そして、時計の針が 12時 を指した瞬間——。
彼は静かに、消えた。
「……また、会える?」
消えた彼のぬくもりを抱きしめながら、私はそっとつぶやいた。
—— ‘運の神様’ を、私は本気で好きになってしまった。
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