第2話 告白
今日の庭園での作業は朝の八時から始まることになっていた。
八時開始の時は、だいたい十時になると休憩時間がある。リネアはその休憩時間が来るのを忍耐強く待って、庭園に向かった。
休憩中のエミルは、
リネアが近づいて来ることに気づき、振り向いて、水筒のふたを閉めながら笑顔を見せる。
「おはようございます、お嬢さま。昨日はよくおやすみになれましたか?」
「おはよう。あんまり眠れなかった」
会ったらすぐに打ち明ける。それしかないと決めていた。
ぐっと両手を握りしめ、顔を上げる。
「あなたのことをずっと考えていたから、眠れなかったの」
「おれのこと・・・ですか?」
エミルは、リネアに関係することで自分が何かまずいことをしてしまっただろうかと、急いで記憶をたどった。
リネアは跳ね上がり続ける心臓の鼓動の揺れに耐えながら、言葉をしぼりだした。
「わたし、エミル以外の人と結婚したくない。エミルじゃなきゃやだ」
「えっ」
エミルは固まった。言われた意味がわからなかったわけではない。ただ、真っすぐに自分を見つめるリネアに向かって、返せる言葉が見つからなかった。
「えっと、まあ、お嬢さま、落ち着いて」
なんとかそれだけ言って、半ば反射的に、水筒のふたを開け、リネアに差し出す。
両手で受け取ったリネアは、水筒越しにエミルを見てつぶやいた。
「……間接キス」
「うわっ、す、すみません!」
取り戻そうとするエミルを、リネアはくるりと体をひねってかわし、水筒に口をつけた。勢いよくコプコプと飲んで、プハッと口を離す。
「おいしい!どこの水?」
「キティネン川です。屋敷に来るとき近くを通るんで、汲んで来てます」
「そんなに遠くから通って来てくれてたんだ」
「はい」
「それでね、エミル」
「はい……」
「もうすぐわたし、結婚するかも知れないの。相手はトルサ子爵家のご長男。お父様が熱心に勧めてくださって。でもわたし……」
リネアは水筒を両手で持って胸に引きつけたまま、じっとエミルを見つめて、エミルからの言葉を待った。
エミルは、最初にリネアから告げられたことに対して、答えなければならないと理解した。
「その……えと……その結婚のお話、もしお気が進まないのであれば、お断りすることはできないのですか?」
「エミル」
聞きたいのはそんな答えじゃないということを、目で訴える。
「エミルはどう思う?わたしが誰かと結婚するってこと」
エミルは再び言葉に詰まった。
「エミル。わたしをこの屋敷からどこかへ連れ去って欲しい、遠い場所で、二人で一緒に暮らして欲しいってわたしがお願いしたら、きいてくれる?」
涙があふれ出た。言いながら痛いほどわかった。自分がどれだけ無理なわがままを言っているか、それによってどれだけ誠実なエミルを困らせてしまっている。
「ごめんなさい!」
リネアはそう叫んで水筒をエミルに突き返し、屋敷の中に駆け込んで、自分の部屋のベッドに突っ伏した。声を上げて泣き、泣き疲れると、そのまま昼食まで寝てしまった。
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