第8話 アルメイラ
昼休み。
家が大学に近い俺は家で昼食をとりながら、『アルメイラ』という単語を調べようとしていた。
すると美優のライン。
『京極先輩と知り合いなの?』
美優曰く、美優のバイト先に居た先輩で、美優が入って暫くして辞めた。
美優の今の格好を参考にした、勝ち気な女性。
とのことで、美優はあの勝ち気な性格を羨ましく思って、格好を真似たらしい。
地味で弱気な自分だから、つけ込まれたのだと。
なるほど…少し合点がいった。
まぁ、俺の好みではないが、美優は地味だがモデルのようなプロポーションで美形だから、何でも似合いそうなのだが。
で、アルメイラは、繁華街にあるキャバレー?スナック?みたいな場所だった。
調べてみた結果はいかがわしい風俗のような場所ではなく、普通に女の子と話しをしながら酒を飲む場所らしい。
うへぇ…
しかし、ハードルが高過ぎる。
酒は飲めなくはないが、そんな場所には行ったことなどない。
純朴…とは言い難いが、そう装っている俺には縁が無い場所のはず。
そう思っていたのだが。
午後一の授業。
一般棟Bの自販機コーナーに、あの金髪帽子が座っていた。
「おい!」
明らかに俺の顔を見て、言葉を発している。
「えっと…英語のヤツ!」
…無視は出来そうも無い。
「先輩。先輩も授業ですか?」
俺は自販機コーナーで立ち止まって、コーナーのベンチに座っている金髪帽子に返答をした。
「いや。お前を待ってた。」
「ノートはいつでも大丈夫です。」
「そうじゃねえ。名前、あと連絡先聞いてねー。」
何だ?
なんか興味持たれるようなことあったか?
「高松、修です。」
「修な。あとラインと電話番号教えとけ。」
「えっと…俺、なんか失礼なことしました?」
「そんなんじゃねえ。あと、今日晩の約束、マジで頼むぞ。」
「え、いや…」
「大丈夫だ。ホントマジで頼むぞ。携帯出して、あとロック解除…」
いやいや、破天荒過ぎるだろ。
まだ初対面に近い、女子とはいえ他人にロック解除した携帯を差し出せる訳が無い。
「あ、えと、先輩のラインのコード、出してくれたら…」
「あ、そやな。ほら。」
ラインのコードを読み取る。
aya
綾羽だからか。
「おぅ、サンキュ!今日マジで待ってるからな!」
そう言ってベンチを立ち上がる先輩。
背は美優ほど高くない。美優が特殊ではあるが。
美優が京極先輩を格好良い、と言ってたのは若干だが理解出来る。
強引が過ぎるとは思うのだが。
で、颯爽と先輩は去って行く。
マジか。
行かなくちゃいけないか…行かなくちゃいけないんだろう。
そう思って、覚悟を決める。
まぁ、社会勉強だ、何かの縁だと思うことにした。
20:55。
美優からの会いたいラインを説き伏せて、繁華街に来た。
アルメイラは、駅前じゃなくバスターミナルの方の繁華街にあった。
「ここか。」
雑居ビルの2階。
階段を上がってすぐの木製の大扉。
年季の入ったビルだが、とても綺麗に清掃されてある。
扉も下卑たものではなく、重厚だが落ち着いたものだった。
大扉を開く。
「いらっしゃいませ。」
落ち着いた物腰の、丁寧で穏やかな口調。
やや暗い店内の入口には落ち着いた装いをした美人さんが丁寧にお辞儀をしていた。
「あ、始めてなのですが。」
声が強張らないように慎重に言葉を発する。
「どなたかの紹介ですか?」
美人さんは穏やかな微笑を浮かべながら尋ねてきた。
歳は25〜30前くらいの結構な美人。
この女性が居れば、店も繁盛するだろうと簡単に推測出来る。
そのくらい、穏やかで優しい微笑。
「京極さんに…」
「ああ!綾ちゃんのお客さんね。聞いてるわ。」
優しい微笑を絶やさない。
「修くん…だったかな。」
「はい。」
「ありがとうね。来てくれて。綾ちゃんも喜ぶわ。」
「あ、そうなんですね。」
「ふふ。それはもう本当に。あと、ごめんなさいね。ちょっと狭い個室に案内するけど…」
「あ、はい。大丈夫です。」
「すぐに呼んでくるからね。」
美人のお姉さんに案内されて奥の個室へ。
そして個室は、想像以上というか…
いや、本当に狭い…
2人がけのソファに壁付けのテーブル。
漫画喫茶のカップルシートより狭いだろう個室だった。
右側にあるソファの奥に座ると、もう1人しか入れないような、そんな感じ。
なんだが無理やり2人用個室を作りました!って言える部屋。
暫くして、個室の扉がノックされて、開かれた。
「いらっしゃいませ。」
…華美過ぎない装いの金髪ショートが顔を上げて微笑む。
そうして、扉を閉じて隣に座った。
「来てくれないかと…思ってた。」
昼とは全く違う、優しい口調で話しかけてくる京極先輩。
「先輩、絶対って言ってたから。」
「ここでは綾って呼んでくださいね。」
「綾さんが、絶対って言ってたので。」
「ふふ。ありがとう。何か飲む?」
そう言って、テキパキとメニューを取り出す。
「綾さんにお任せします。」
「ふふ。良いの?ちなみに何を飲んでもお金かからないから安心して。」
本当に昼間とは別人のような優しい態度。
むしろこちらの方が堂に入っていて、こちらが素のように感じる。
「えっと…どうして俺が呼ばれたのか、尋ねても?」
俺は恐る恐る尋ねてみた。
正直、初対面でここに呼ばれる理由が無い。
初対面で先輩が俺のことを気に入ったとしてもだ。
「ふふ。そうね…飲んだら話してあげる。」
あくまで優しく柔らかい口調の先輩。
内線で飲み物を頼んで、マジマジと俺を見つめている。
扉が開いて、飲み物が運ばれてきた。
「これ、ちょっと強いから、ゆっくり飲んでね。」
そう言って、飲み物を渡してくれた。
ずっと微笑みながら俺を見つめる先輩。
先輩はどちらかと言うと、美人というより美少女という感じだから、これはこれで良い体験なのかも知れない。
で、内線が鳴る。
慌てて内線に出る先輩。
いくらか経って通話を切った先輩は、安堵の表情になっていた。
「どうかしました?」
「うん。修くんのおかげかな。」
そう言って、俺の手に手を重ねる。
「えっと…どういうことです?」
…どうやら先輩は、悪質な中年オヤジに狙われているらしい。
ボトルを入れてくれたり、始めは紳士的で優しかったりしたのだが、一度、この個室で接客したときに触ってこようとしたり、キスしようとしてみたり大変だったらしい。
で、そういう店じゃないから、と何度言っても、バイトのある日にやって来て、個室に連れ込もうとしているとのこと。
で、つい先日にとうとう身体を触られて、ちょっと怖くなってその男が来る時間に確実に誰かの接客をしよう、となって、俺に白羽の矢が立った…
という話だった。
「えっと…何で俺なんです?」
「だって、初対面の厚かましい先輩にノート貸すようなお人好しさんだから。」
そう言ってコロコロと笑う先輩。
「俺、未成年なんですけど?」
「でもまぁ、飲めるでしょう?」
「まぁ…」
「それにあんなに情熱的な彼女さんも居て、真面目だし、見た目も好みだったしね。」
あー…なるほど。
だから途中から値踏みするように観察されてたのか。
「いや、彼女は単なるクラスメイトですから。」
「ふふ。向こうはそう思ってないかもよ?」
…鋭いな、先輩。
でも美優との関係が露呈したら、それは面倒くさいので、否定しておかなくちゃいけない。
「私、バイト10時までだから。」
…そうか。ラストまで護衛しろってことね。
「了解です。」
「帰りはどうするの?家、大学近く?」
「歩いて帰りますよ。大学までだからそう遠くないですし。」
「あ、じゃあ、送るから一緒に帰って貰って良いかな?」
「いや、悪いですよ。俺なら大丈夫ですから。」
「店から経費でタクシー代が出るの。それに帰りにあのお客さん居たら怖いから…」
なるほど…
まぁ、ならお言葉に甘えるとしようかな。
で、その日はお互いの他愛もない身の上話しで終わり、無事帰宅。
タクシーを降りるときに少し驚かれたけど。
家に着いてシャワーを浴びて寝ようとしたら、ラインが1件来ていた。
『水曜日9時』
先輩からだ。
了解、と返事して寝ることにした。
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