10 天秤Ⅰ
学校が終わり、現在僕の家の僕の部屋で彼方と二人。
ゲームをやって、アニメを見て、そんな感じで過ごしていた。
「おい、今週もやばかったろ?」
「そうだね、でも好きなヒロインの回じゃないのがなぁ…」
「黒髪ストレートだっけか?」
「そうそう」
「なんか普通だよなー、お前はもっと大衆とずらそうって思わないのか?」
「正統派なかわいさがいいんだよ」
ふと部屋の時計を見ると、もう18時になるくらいだった。
「もうそろ、帰った方がいいんじゃない?まだ明るいけど、もう6時だよ」
「え?あぁもうそんな時間かー」
彼方も時計を見て無念がっていた。
彼は立ち上がり、僕を見た。
「最後にさ、気になってることがあってさ……」
「え、何?」
なんとなくだが、彼方がいつもと違うテンションのような気がした。
少し、ドキドキしながら彼方の言葉を待った。
「やっぱりさ、悠はさ……」
「黒澤さんが好きなのか?」
え?
彼方は予想の斜め上の質問をしてきた。
好きな人についての話は、他の人としたことがなかった。
最近は違うが、それまではみんなも一線を置いていた気がする。
やはり、学校の風潮に煽られて彼方もそういう話をしてきたのかもしれない。
クラス内でも、男子は男子同士で、女の子は女の子同士で、そういう話をこっそりしてたりする。
僕も少なからず聞こえてしまうこともあったけど、だれがだれを好きとか聞くと意識してしまう気がしたので、聞かないようにしていた。
けど、面と向かって僕自身がそんな話を振られたことはなかった。
そういう話に入りたくもなかったし、みんなもなぜか入れなかった。
だから、驚いたと同時に、すさまじい現実感が襲ってきた。
自分を恋愛小説の中の主人公だと思っていたわけではなかったけれど、僕も、そういう普通の話をするんだと。
恋愛は決して1対1の駆け引きではないのだ。
恋愛小説でも何でもない現実を知らされた気がした。
彼に僕の好きな人がばれていたことにはあまり驚かなかった。
僕が彼の好きな人がわかっているように、長い間一緒にいるような、気が置ける人の考えていることはまぁまぁ理解できるのだ。
しかし、その彼が、黒澤さんのことが好きな彼が、この話題を選んだことが意外だった。
僕からはできない話題だったから。
「な、なんで?」
「考えたんだよ。告ったり、告られたり、あるだろ?そういうの」
「うん」
「お前が黒澤さんを好きだとして……例えばだけど、お、俺も黒澤さんのことが好きだとするだろ?」
「う、うん」
「好きな人が被ったらさ、アニメのヒロインみたいにさ、それを受け入れて、各々が同じ人に告ったりさ……」
「できないよな?悠もだろ?」
「どういうこと?」
彼方は考えをひねり出しながら話しているのか、あまり訳のわからないことを言っていた。
僕の理解力がないのかもしれない。
「だ、だからさ。俺たちが友達のままでいることと、どっちかの恋が実るっていうのは、一緒にはないってことだよ」
「え」
ついには僕自身も彼方の言っていることをおぼろげに理解して、納得してしまった。
僕も考えた、もしも、彼方が黒澤さんと付き合ったとして……。
そしたら、心の中がもやもやとした。
嫉妬なのかな。
でも、誰が黒澤さんと付き合ったとしてもそう思うだろうな。
けど、近しい人間、彼方が黒澤さんと付き合えたとしたら、恋愛していたら、もっと胸が苦しくなる気がした。
僕は考えるのをやめた。
「で、どうなんだよ?悠は黒澤さんのことが好きなんだよな?」
「え、えと」
ここで誤魔化してもどうせ、彼方にはバレているので、仕方がなかったけど。
なぜだか、肯定の言葉が出てこない。
それは、友情と恋愛の天秤だった。
彼方の話でそれに気づかされたのだ。
あと、もう一つ。
意外な理由が生まれた。
白木さんを思い出したのだ。
さっきまで賑やかだった僕の部屋に沈黙が生まれた。
気まずさに耐えきれない。
丁度限界が来たところで、彼方が動いた。
「急にこんな話ごめんな。はぁ……ただでさえ勝ち目ないってのにな……」
「俺たち、友達だからな!」
「う、うん!」
彼はそう言ってドアノブをひねり、出ていこうとした。
彼の天秤がどちらに傾いているのか、僕にはわかってしまった気がした。
ドアが開かれると、部屋の外に人が立っていた。
「うわっ」
「うおっ」
彼方とその人がぶつかりそうになったが、すんでのところで回避した。
「悠のお姉さん。お邪魔してます!」
「お、おう。そうか、帰りか?」
「はい」
「気ぃ付けてかえれよ……」
「はい。じゃ、じゃあな悠」
「うん、また明日」
彼方は姉さんを通り過ぎ玄関の方へ向かっていった。
「おい悠、見送りだけでもしてこいよ」
「う、うん」
------------------
玄関先まで行って彼方を見送る。
「悠、さっきのことは忘れていいからな。じゃあな」
「うん、じゃあね」
少し門限を過ぎてしまっているのか、彼方は走って消えていった。
玄関に戻ると姉さんが立っていた。
「姉さん、帰ってきてたんだ」
いつもは、もう少し遅く帰ってくるから、意外だった。
僕より身長の高い彼女を見上げる。
しかし、姉さんはそれに返事をせず。
「悠、おまえ好きな奴いるのか?」
玄関側の窓から入ってくる夕日が姉さんの金髪やピアスを爛々と赤く照らしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます