SIDE B ナツとフユキの場合

第6話

「さっきはごめん。」



大学の講義中、鞄の中でバイブ設定のスマートフォンが揺れていた。

ブーブーっとメールの通知を知らせる。

なんとなく通知を察して、

椅子に置いたトートバッグの中をチラッとのぞいた。


やっぱり。

フユキだった。


まだ言葉は続きそうだったけれどメールの本分は見ない。

通知画面で十分だった。


昼頃、電話のコールには気付いていたけれど無視をしたので、

講義中に電話してごめんと短いメールでも送ってきたのだろう。

フユキの行動や癖ならだいたい分かっているつもりでいる。




フユキとは高校2年生から付き合っている。

同じ制服を着て同じ学校へ通い、

1年だけ違う時間を過ごした以外はいつも思い出の中にお互いがいた。

二十年ちょっとの人生で6年も同じ人と恋をしている事実に自分でも驚く。

6年は私の青春の全てだったし、きっとフユキも同じだと信じている。


1年早く生まれたフユキは1年早く卒業して

1年早く私のいない街へ旅だった。

追いかけるように大学生になった私は

フユキの近くにいたくて、同じ街を選んでひとり暮らしを始めた。

3年間は2駅しか離れていないご近所に住む恋人だった。

一緒に家でごはんを食べたり、どちらかの住む駅へ遊びに行ったり。


なんでもない日々が愛おしく、

特別なことがなくてもキラキラして楽しかった。

親元から離れた自由と、

制服時代には出来なかった恋をたくさんした。



そして夢のように楽しかった時間はあっという間に過ぎ、

先に就職したフユキは入社した会社の寮へ。

私だけ1年遅く生まれたペナルティのようにこの街に残り、

フユキは私たちの住んでいた街とは真逆の、東京の端っこへ引っ越してしまった。


住所だけならふたりとも「東京都民」なのに、

会うのに1時間半もかかる。

東京はとても横に長く広いと初めて知った。

これじゃ遠距離恋愛じゃんと今でも納得していない。

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