第3話 思い出〈前〉

 自分の部屋に戻ると、しばらくして姉がやってきた。私以上に深刻な顔をしている気がする。


 なんか、ごめんね。


 【運命の出会いプログラム】はカウントダウンが始まる前日に通知が来るので、保護者である両親は私と同時にカウントダウンの開始を知った。姉にもすぐに伝えるべきだったけど、頭の整理ができなくてズルズルと先送りにしてしまった。


 やっと、気持ちが落ち着いてきたから、週末になるのを待って昨日の晩に報告したの。


 食事の後にそのことを両親に伝えたので、通知が来た日以来、三人ともなんとなく避けていたこの話になった。昨日は姉が動揺していたため報告だけして自室に戻ったから、姉と二人でこの話をするのは初めてだ。


「余計なことを言ってごめんね」


 姉の謝罪は私の恋を応援すると言ったことに対してだと思う。でも、その会話を初めてしたのは昨年だから、誰も今の現状を予想できなかったと思う。私だって姉に相談されていたら同じように背中を押していたと思うの。


「お姉ちゃんが謝ることないよ。それに、私は感謝してるの。何も行動していなかったら、もっと後悔していたもん」


 これは姉への気遣いではなく本心よ。せっかく応援してくれたのにあまり成果を上げられなかったのは、臆病な私と発動が早すぎる【運命の出会いプログラム】のせいだ。


 姉も私の言葉に嘘がないと分かったのか、ホッとしたように表情を緩めた。



 私が彼を知るきっかけになったのは二年前の秋の終わり、姉に連れられて行った映画館だった。


 姉がいなければ、私は恋を知らずに【運命の出会いプログラム】に挑むことになったと思う。そのほうが良かったと言う人もいるかもしれないけれど、私は自由な恋愛が出来て良かったと思っている。そういう意味でも、姉には感謝していた。


 三つ離れた姉は当時16歳。たまたま、親しい友人たちが立て続けに【運命の出会い】を果たしていたらしい。


 彼氏との関係を相談されたが、姉自身には経験がない。話を聞いても上手く想像すらできず、思い立ったのが恋愛映画を観ることだったらしい。


 でも、いつも友人に囲まれている姉は一人の行動になれていない。友人を誘うのも躊躇い、妹の私が駆り出されたというわけ。


 当時は、そんな裏事情があるなんて話してくれなかった。知ったのは、昨年、姉が【運命の出会い】を終えてからだ。私からは姉が完璧な女性に見えていたから、恥ずかしそうに語る姉を見て内心とっても驚いた。


 そんなわけで姉と二人で映画館に行ったのだけど、二年前には二人とも映画なんて初めてで、後ろの方の席に並んで座ってコソコソ観たのが良い思い出だ。その時に観たのはヘイセイ後期の映画だったけど、現代の映画を選ばなかったことに理由はない。家から一番近い映画館が旧作を上映するところだったってだけなの。


 私はその一回で古い映画の虜になったけど、姉の好みではなかったみたい。姉からの二回目の誘いはなく、私は自分のお小遣いを使って一人で恋愛映画を観るのが習慣になった。


 恋愛映画は人気がなく、毎月第三日曜日に一回しか放映されていない。恋愛映画が好きな二人が出会うのは必然だったとも言える。


 私は運命だって思ってるけどね。

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