全部、夏のせい。

第1話

「…え?」




ピンポーン、と軽い音を鳴らしたインターホンを覗き込めば、見慣れた、けれど久しく顔を合わせていなかったそいつが、気まずそうに立っていた。




「…なに?」


『数学のワークの答え、見して』




自分のはどうしたの、と訊けば、友達に借りパクされた、と返ってくる。


なんで男の子ってそうなんだろう。



バカだなあ、と思いながらも、暑そうに手で顔を扇ぐ仕草に良心が揺らいだ。




「鍵、開いてるから入っていいよ」
















「貸してあげるから自分の家でやりなよ」


「返しに来るのめんどいからやだ」




そこで待ってて、と言ったはずなのに。


どかどかと上がり込んできたそいつは、私の部屋の椅子に勝手に座って、持参したノートやらペンケースやらを広げていく。




「あ、赤ペン忘れた。貸して」


「……その辺にあるでしょ」


「どこ?引き出し?」


「ちがっ」




見られて困るようなものはないけど、気安く見られたいものでもない。


容赦なく引き出しを開けようとした手を慌てて制止して、そいつの目の前にあるペン立てから引き抜いた3色ボールペンを、顔の前に突き出した。




「さんきゅ」




…確信犯だ、こいつ。


にこりと笑顔を作って机に向き直った横顔に、胸がざわざわと荒波を立てる。



ずっと同じ部屋にいる必要はないと思ったけれど、こんなやつを部屋に1人残したら、何をされるか分かったもんじゃない。


エアコンの設定温度を一度下げると、私もベッドの上に胡座をかいて、漫画をパラパラと捲った。

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