第7話 テスト結果

「手元ノタブレットヲゴランクダサイ」


 既に机の上に配られていたタブレット端末に、教科書がすべて取り込まれているらしい。


 まずは数学の授業だった。


「最初ノ30分デ授業ヲ行イ、残リノ20分デ確認ノテストヲ行イマス」


「いきなりテストかよー」


 前の席の拓也がヤジを入れた。


 俺も内心思っていたから、代弁してくれて大変ありがたい。


 一応生徒会長という立場上、担任に反抗的態度をとるわけにはいかない。


 今まで黙っていた他の生徒たちもざわつき始める。おそらく思っていることは皆同じだ。だが、拓也のように声を大にして異議を唱える生徒はいない。


「スベテノ授業デ、コレヲ繰リ返シマス」


 つまり、毎時間テストがあるというわけだ。


 大声で文句を垂れる拓也を完全無視して、担任は授業を進めた。


 一本調子の13ホームルームティーチャーの声は、お経でも唱えているかのようだ。


 タブレットをしっかり見ていたつもりだが、今、どこを解説しているのかすぐに追えなくなった。


 チラリと隣の司を見た。


 司はおそらく私物であろうノートパソコンにデータを入力していて、タブレットは見ていない。


「おい、テストがあるのに授業聞かなくていいのかよ」


 俺は小声で聞いた。


「授業が始まる前に、全ページ閲覧して記憶データに取り込んだから」


 司はチラッとだけ俺の顔を見ると、すぐにノートパソコンに向き直った。


 なんだ、今の。なにやら上から目線の態度だったぞ。


 全ページ記憶データに取り込んだってことは……テストは満点とる自信があるのか? なんだそれ、チートじゃないか。


 でも、待てよ。他の生徒たちも全員アンドロイドだ。とういうことは皆、余裕で満点なんじゃないか?


 前の席の拓也を見たが、やはり授業を聞いている様子はない。というか、机に顔を伏せて完全に寝ている。


 マジかよ、拓也もか。文句を言っていたくせに、実は全て暗記済みなのか?


 担任は今どこを解説しているんだ?


 俺は必死にタブレットをスクロールした。


 これまでの人生で、俺の学力は高い方だった。いきなり落ちこぼれになるのは、俺のプライドが許さん。


 俺は全神経を授業に集中させた。


 その甲斐あって、テストは全問解けた。時間ギリギリまで見直しをして、完ぺきだと確信した。俺は自信を持って、タブレットで回答を送信した。


「終わったー」


 俺は晴れやかな気分で伸びをした。


 あとは結果を待つだけだ。


「答案ヲ返却シマス」


 えっ、早過ぎないか。今、解答の送信ボタンを押したばかりだぞ。自動採点なのか?


 タブレットに答案用紙が返ってきた。


「1時間目ノ授業ヲ終ワリマス」


 担任はそう言い残し、ウィーンと車輪を走らせて教室を出て行った。


「なぁ、あの担任おかしいと思わないか?」


 担任がいなくなると、司が話しかけてきた。


「おかしいに決まってるだろ。なんで担任が旧型ロボットなんだよ」


「そうじゃなくて」


「そうじゃなかったらなんだ?」


「答案用紙が返ってくるのが遅かった」


「いや、めちゃめちゃ早かっただろ」


「全員が送信ボタンを押し終わってから、返送まで5.5秒。通常は5秒のはずだ。いそいそと帰っていったし、どうもバッテリーの減りが早そうだ」


「そうかぁ?」


 俺は適当に返事をした。司は何を言っているんだか、俺にはさっぱり意味がわからない。


 それよりも、俺はテスト結果が気になって仕方がない。


 返送された答案画面をクリックすると、テストの点数がでかでかと現れた。


 俺はタブレットの画面を見つめた。


「99点……」


 解答内容を見直すと、マイナス記号の書き忘れだった。答えはわかっていたのに、何度も見直しもしたのに。


 他の生徒はきっと全員満点だ。つまり99点の俺は、クラスでビリの成績なのではないか?


「うわー」


 俺は頭をかきむしった。


「ケアレスミスだな」


 司が俺のタブレットを覗き込んで、勝ち誇ったように笑った。


 司のタブレットを見ると、100点の数字が光り輝いている。


 俺は大きくため息をついた。


「まぁ、そう落ち込むな。俺に負けたと言ってもお前は学年2位の成績だ。これから俺のライバルになるかもしれない」


 そう言いながら、司が励ますように俺の背中を叩いた。


 今、司は俺が2位だと言った? 他が全員100点ならば、順位は最下位になるはずじゃないか。


「俺が2位なわけないだろ。大体、どうして順位がわかるんだよ」


「点数の横に小さく順位が載っている」


 タブレットを改めて見ると、確かに順位が書かれていた。


 響も座ったまま後ろを振り返って、俺のタブレットを覗き込んできた。


「わぁ! 真人くん、すごい! 99点? 私なんか88点だったよ」


 響が自分のタブレットを見せてきた。


「結構頑張ったんだけどなー」


 響が不満げに口を尖らせる。


「88点だってすげーじゃん。俺21点」


 拓也が頭を掻きながらへらへら笑った。


「あれ? 俺以外全員100点じゃなかったのか……」


 俺は首をかしげた。


 インフィニティブレイン社が追い求めているのは、最も人間らしいアンドロイドだ。それはただ単に知能が高いアンドロイドではないのかもしれない。


「どうやらアンドロイドによって、性能に差があるみたいだな」


 司がパソコンを叩きながら言う。


 拓也が突然立ち上がった。その勢いで椅子がガタンと音を立てて床に倒れた。


「あぁ? お前ら俺を馬鹿にしてんのか?」


 拓也がドスのきいた声を上げた。


 席に座ったままの司と俺を、拓也が見下ろしている。

 

 和やかだった空気が一転した。

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