感情薄い系女子を全力で笑わせたら、何故か距離感がバグり始めた件

にゃー畜

#1 プライド失くし、笑みを得る。


「暇なら俺たちとどっか行かない?」

「絶対楽しませるからさ!ね?」


目の前でナンパが行われている。

それも、ラノベとかでよくありがちなレベルのテンプレ構文で。


まあ普通にナンパが目に入っただけならこうして足を止めることはないけども、今回はそうはいかない。なんせ、あのナンパを受けている相手に俺は見覚えがあったからだ。


「あの……邪魔なんですけど」


邪魔と言いながら全く嫌がる表情が出ていないあの女子は "涼風すずかぜゆらら"、いわゆる感情薄い系女子だ。

同じクラスではあるが、実際に喋ったことはほとんどない……こともないという程度で顔は知っているぐらいの仲である。


「えー?そんなこと言ってるけど全然嫌がってないジャーン!」

「本当は俺達と遊びたいんじゃないの〜?」

「表情に出にくいだけなんです。邪魔なのでどいてもらえませんか」


(白昼堂々、街中でのナンパともなれば誰も気にも止めはしない……よな。)


周りを確認するものの、通り過ぎる人皆その光景をチラ見するだけに留まっている。

このままエスカレートしていけば彼女に危害が加わる可能性もあるかもしれないし、ここは一つ……


覚悟を決めた俺は全速力でナンパ男達の元へと走り出した。それも、奇声を発しながら。


「きぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


何事かとナンパ男達含め周りの人の視線が集まる。もちろん、涼風さんの視線もだ。


「……ちょっ、何こいつ、ヤバいやつ?」

「……気色悪ぃ。もう帰ろうぜ裕二」


謎に注目が集まったのが嫌だったのか、ナンパ男達は人混みへと消えていった。

もちろん、俺の名誉とプライドも消えていった。


「……同じクラスの涼風…だよな。変なことして悪かった。じゃあ俺はここで……」


もうこれ以上視線を浴びると灰になって散ってしまう気がする。もう帰ろう。

そう考えていた俺の肩がガシッと掴まれる。


「……ちょっ…篠…山くん…待っ…て……」


震える声に思わず振り向くと、そこには笑いを堪え顔が紅潮している涼風さんがいた。


「……そんなに面白かったか、俺の奇行」

「面白いに決まってるじゃん……ふふっ、思い出すだけでお腹吊りそうだよ」


この人、こんな風に笑えるんだな。

……待てよ。要するに、俺の名誉とプライドと引き換えに彼女に表情筋が戻ったのか?


「安いもんだ、名誉の1つぐらい」

「……何言ってるの?」


おっといけない。思わず某海賊のようなセリフが出てしまった。

ところで涼風さんや、表情筋がまたお亡くなりになってるように見えるんだけども。


篠山しのやまくんが変な事言うから、また表情筋が死んじゃった」

「そこまで変なことを言った覚えは無いぞ、俺に罪を擦り付けるな」


と、会話をしている最中で俺はとある事に気がついた。周りの視線が痛い。

一刻も早く帰りたいところだが…色々と話しておきたいこともあるし場所を変えるか。


「一旦場所を変えよう。俺の奇行で通行人の視線が尋常じゃないぐらい集まってる」

「それに関しては今更感あるけど……まあ変えたいって言うなら喫茶店でも行く?」


涼風さんの提案で少し離れた喫茶店へと移動した俺たちはさっきの出来事の整理、諸々に関する説明をお互いに行っていた。


「……要するに、篠山くんは私をナンパ男達から助けようとしてくれてたと」

「理解してくれたようで何よりだ」

「助けてくれたのはありがたいけど、もう少し他にやり方なかったの?」


涼風さんの純粋無垢な瞳が突き刺さる。

当然、他にもやり方はあっただろう。『この人は俺の彼女で……』とか、『待たせてごめん!で、その人達は?』とか色々。


俺がラノベの主人公ならそうしたかもな。

けど、俺は一般男子校高校生に過ぎないわけでそんなイケたやり方は実行に移せない。

だからこそ、あんな突拍子もない奇行に出てしまったというわけだ。実に情けない。


「……俺にも分からないけど、なぜかあの行動に出るのが正解だと思ったんだ」

「結果的に助かったし、もしかしたら正解だったのかな?」


(ごめん涼風さん。絶対に正解じゃないことだけは確かなんだ。)


普段やらない事をやったからかやけに乾く口内をレモンティーで潤わせつつ、心の中で謝罪を入れる。


「……そういえば、涼風さんはあそこで何してたんだ?」


ここに来て一番に聞こうとしていた疑問を思い出し、そのままの勢いで質問する。

最初は誰かと待ち合わせしているのかと思ったが、今ここで俺とお茶をしている以上それはありえないだろう。


「……えっとね。猫カフェに行こうと思ってたんだけど、場所が分からなかったから立ち止まって調べてたらあんなことに」


「それは……うん。災難だったな」


「ほんとだよ……はぁ」


ため息を吐き、少しうなだれる涼風さん。

クラスでぼっちを貫いてる俺はあまり気にしたことがなかったが、こうして改めて見ると涼風さんは整った顔立ちだなと感じる。

感情が薄いのも、知的な雰囲気を醸し出すのに一役買っていてなおさらだ。


……っと、こんなことはどうでもよくて。


「とりあえず今日のことはお互い忘れて、明日からは普通にクラスメイトとして今まで通り接していこう。後、変なことして本当に悪かった」


さっきの出来事は俺だけでなく涼風さんにとってもあまりいい記憶にならないはず。

だとしたら、ここで今日のことは綺麗さっぱり水に流す約束をしておくのが妥当だろう。


そう、俺は『そうだね』や『うん』といった肯定的な答えが涼風さんの口から出ると勝手に思い込んでいたんだ。

しかし、世の中はそんなに甘くなかった。


「……私、さっき笑ってた。久しぶりに声を出して笑った気がする」


思わぬ回答に、俺の脳内はクエスチョンマークで満たされる。


「……篠山くんから見て、笑ってた私はどうだった?」


透き通った栗毛色の瞳と目が合い、思わず視線を逸らしてしまう。


「どうって……難しいな」

「本当に思ったことそのまま言ってくれれば大丈夫だから」


なんだよこの質問!今日のことはさっぱり水に流してはいおしまい!かと思ったら人間性問われるような難問投げかけられたんだけど!?


……まあでも、思ったことそのまま言うしかないよな。変に気遣ったこと言ってもそれは涼風さんが望む答えじゃないんだろうし。


「変だなって思った。悪い意味じゃなく、良い意味で」


俺の回答を聞いた涼風さんの表情は依然として何も変わらない。


「良い意味って、どういう……」


少しばかりの困惑が混じったこの疑問に、俺は率直に答えるべきなんだろうか。

別に仲のいいわけでもない女子の表情についてとやかく口を出す権利があるのだろうか。


渦巻く葛藤の中で、俺は口を開く。


「いい笑顔なのに、普段笑わないのが変だなって思ったってこと」


「……いい笑顔?」


「そう。見ててこっちも嬉しくなるような、なんかそんな感じの笑顔だった」


恥ずかしいことを言った自覚があるのか、思わずレモンティーを飲むペースがあがる。

心做しか顔が熱くなっているような、なっていないような。


「まあ、俺の回答としては以上…かな」

「……決めた、決めたよ篠山くん」


何かを決めたらしい涼風さんはいつも通りの無表情……よりは少し覚悟がある表情になっているように感じる。


「私と、友達になって欲しい」


「……俺なんかでよければむしろありがたいぐらいなんだけど、いいのか?」


「篠山くんといたら、何か面白いことに出会える気がするんだ」


さっきの奇行を毎日行っている変人と勘違いされているような気がするが…まあいいか。

ぼっち俺の学校生活に、少しでも青春という名の思い出が出来るのなら……


友達になったということで、連絡先も交換。

家族と幼なじみ以外に初めて連絡先が追加されたことに喜びつつ喫茶店を後にし、帰路へとついていた俺であったが……道中でとんでもない事に気づくこととなる。


「……なあ、涼風さん。こんなことって普通あり得ると思う?


「ないんじゃないかな……多分」


立ち尽くす俺たちの目の前にあるのは、俺が一人暮らしをしているマンション…及び涼風さんの暮らしているマンション。


そう……俺たちは同じマンションの住民だったのだ。




そんなラノベ設定、現実であんのかょぉぉぉぉぉぉお!!!!!!


――――――


ノロウイルスでぶっ飛んでいた日に新しいネタが思いついたのでこちらも連載していこうと思います。


ブックマークやいいねなんかをしていただけると大変嬉しいです。


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