第三章:記憶の断片

黒田迅の死を前に、パーティーの雰囲気は一変した。

楽しいはずの集まりが、突如として恐怖と疑念の渦に飲み込まれる。


警察が到着し、状況確認を進める間、白神凛はひとつのことに気を取られていた。


――黒田迅の記憶は、なぜ消えたのか?


そして、誰が、なぜ彼を殺したのか?


「まずは彼の過去を調べるべきだな」


白神はそう結論を出し、参加者たちの証言を集め始めた。



---


「黒田さんとは初対面です。あまり話していませんでしたが……彼、何かを恐れていたような気がします」


赤城麗華は落ち着かない様子でそう言った。


「何かを恐れていた?」


「ええ、パーティーが始まってから、ずっと時計を気にしていました。まるで何かの時間を待っているような……」


白神はメモを取りながら、逆さ時計を思い出した。


「記憶を失いながら死ぬ――それが偶然とは思えません」


「黒田くんは、クロウの研究に興味を持っていたのでは?」


紫村静が静かに口を開く。


「興味?」


「彼はITエンジニアでしょう? 記憶データの保存技術に関心を持っていたように見えたよ」


記憶の保存――白神は心の中でその言葉を繰り返した。


「それなら、クロウの研究と何か関係があるのかもしれませんね」


クロウは腕を組んで微笑した。


「確かに彼は、私の研究に興味を持っていたよ。しかし、私の研究はまだ実用段階にない。人の記憶を自由に操作するなんて、そんなことは……」


「本当に?」


白神はクロウの言葉に疑念を抱いたが、今はそれを追及する時ではなかった。


「黒田さんの記憶に、事件の鍵があるのは間違いない」


その言葉とともに、白神は新たな手がかりを求めて動き出した。


しかし、この時、まだ誰も気づいていなかった。

黒田迅の死は始まりに過ぎないということを。

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