「ベンチ」、「日傘」、そして「高揚感」
放課後、駅までの道を歩いていたら、突然の西日が顔を照らした。
暑さというより、まぶしさが前に出る夏の夕方。
「せんぱい、こっち入りましょう」
そう言って後輩が差し出したのは、日傘だった。
白地に水玉。意外とかわいらしいデザインだ。
「それ、似合ってるな」
「えっ。あ、ありがとうございます……! いや、これは“雨兼用”ですから! 便利アイテムですから!」
「あ、うん」
駅前の公園にある、木陰のベンチに並んで座る。
「今日の部活、楽しかったですね」
「原稿会議のことか?」
「いえ、“原稿提出遅延裁判ごっこ”のほうです」
「判決が“おやつ1回没収”だったやつな」
「ゆるすぎて逆に記憶に残ります」
後輩が手元のペットボトルを揺らしながら言った。
「なんかこう、夏ってだけで、ちょっとしたことも高揚感出ますよね」
「夏補正ってやつか」
「はい、気温が感情を盛ってくるんです!」
「それは熱中症手前じゃないか」
「いやいや、たとえばこの“日傘の下でベンチに並んでる”ってシチュエーション、
ちょっと青春してません?」
「言われると恥ずかしくなるからやめろ」
ふと、日傘の角度がずれて俺の肩に陽が差す。
「……ちょっと寄ってください。焼けます」
「傘、そっちに寄せればいいだろ」
「……あ、そっか」
「……」
「……」
「お前、今わざと寄れって言ったろ」
「いやいや、わざとじゃないです! ……多分」
「“多分”ってなんだ」
しばらく黙って座っていたが、どこか心地よい沈黙だった。
近くの噴水の音と、子どもたちの笑い声。
そのどれもが、この時間を**“ちょっとだけ特別”**にしてくれている気がした。
「……また、このくらいの時間に帰るの、いいですね」
「たまには寄り道も悪くない」
「じゃあ今度は、おやつありでここにしましょう。
“文芸部非公式、放課後ミーティング”ってことで」
「それ、どっちかっていうとピクニックだな」
「正直、その響きでもう勝ちです」
日傘の影は、夕日とともに少しずつ長くなる。
でも、その下にあったふたりの距離は、たぶん——
陽が落ちても、ちゃんと残っていた。
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