第1話(後編)……夜の帳と血の記憶

『黄金と血のアルゼンチン』第一章第1話【作品概要】です。

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前書き

欲望の光に誘われて、都市は夜の顔を見せる。美貌の姉妹、裏通りの娼婦、煙草と賭博の匂いが染みついた雀荘。そして、闇に浮かぶ一台の車――。ルドラが踏み入れるのは、金では動かせぬ人間の本性が剥き出しとなる舞台だった。新たな出会いと取引の裏で、人は何を失い、何を得るのか。運命は静かに、しかし確かに、彼をさらなる深みへと誘っていく。


マリアとカタリナの姉妹は扉に耳を当ててこの話を聞いていた。


マリア:姉さん。金塊1トンって何ペソに当たるの?


カタリナ:私に聞いても分からないわよ。でもあの若い人は相当お金を持っているわね。マリア、あんたはあの人に気に入られているわよ。


マリア:そうかしら。


カタリナ:きっとそうよ。貴女の肖像画を即興で描いたでしょう。私も欲しかったけど描いてくれなかったわ。


ガラッとドアが開き、ルドラたちが出て来た。


カタリナは遠慮なく、「金1トンが何ペソになるのか?」とルドラに聞いた。


ルドラはしばし計算して、こう答えた。


「純金1グラム=60米ドル=60アルゼンチン・ペソ(ARS)と換算すると、


60✕1000✕1000=6千万ペソ


位かな」


カタリナとマリアの姉妹はお金に魂を奪われ、ルドラに取り入り始めた。


カタリナはルドラの気を惹こうとありとあらゆる方法を使ってルドラを誘惑した。ルドラは一切相手にしなかった。


マリアはそんな陳腐な方法は使わず、ルドラにずばり要求した。


「ルドラさん、私モデルになりたいの。何とかしてちょうだい」


ルドラはマリアがあの強欲なシャルロッテのように思えてきた。気を惹かれた。


ルドラ:モデルにも色々あるがどんなのをやりたいのだ。


マリア:そうね。雑誌やポスターのモデルをやりたいの。


ルドラ:そうか。タリオ何とか出来るか?


タリオ:何とか走り回ってみましょう。


ルドラ:マリア、モデルの仕事は仕事でやれば良いが、お前映画に出てみないか?


マリア:そんなツテを持っているの?


ルドラ:ツテは持っていないが、映画を作ってお前に主演をさせてやれば良いのさ。既存のラジオ会社を知っているなら俺が交渉してやっても良い。


マリア:それなら、ブエノス・アイレスのエステル・ラジオと交渉してみてよ。


ルドラ:了解した。連絡するからしばらく待ってろ。


マリア:早くしてよ。お願いね。


ルドラ:おい、マリアと言ったな。俺に頼み事をしておいて急かすとはどういうことだ。お前はそういう立場なのか。俺がお前のことを気に入ったとでも思っているのか?


マリア:御免なさい。私が悪かったわ。


ルドラ:これから俺に対して生意気な口を聞くと殺してしまうぞ。分かったか?


マリアは態度をガラッと変えてきたルドラを初めて怖く思い、二度と舐めた態度を取らなかった。この男は普通の男ではない。


ルドラとタリオはカフェを出て、隣りにある遊技場に入ってみた。ビリヤード場はそれなりにお客さんも入っており、賑わっていたが、雀荘とか言うものには一人もお客さんが入っていなかった。店長らしき女性がポツリと座っている。


ルドラは彼女に声を掛けた。


「こんにちは。雀荘というのはどういうものですか?やったことがないものでね」


店長:ああ、そうですか。元々は東洋の中国から伝わったゲームなんです。香港って都市をご存知ですか?


ルドラ:ああ、聞いたことはあるよ。中国も広いけど香港でしかやっていないのかい?


店長:いえいえ、広州とか南京とかどこでも流行っていますよ。一度遊んでみましょう。ルールは教えますよ。


4人で遊ぶ物だそうで、ルドラ、タリオ、中田、高梨の4人でルールを教えてもらいながら、午後6時まで遊んだ。


昼食は途中で麺類を食べながら摂った。面白いのなんの、ルドラは夢中になったが、中田、高梨に手酷くひねられた。


半荘10回のうち、ルドラは一度も勝てなかった。タリオはまぐれで一回だけ勝たせてもらった。ふたりで5,000ペソ負けたが、これぐらいで済んで良かった。途中で何人かお客さんが入ってきて交代もし、空いているお客さんと世間話もしたが、このふたりは相当強いそうだ。ブエノス・アイレスでは5本の指に入る腕前だと言っていた。


客の中にエステル・ラジオのプロデューサーがおり、マリアのことを話すと興味を示したのでマリアの肖像画をもう一枚書き、彼に渡した。彼はレティオ32歳と名乗り、マリアと話がしたいというのでマリアに会わせた。即決でマリアのラジオパーソナリティ就任が決まった。


レティオ、マリアと別れて夜の街をぶらぶらと歩いた。大通りを歩いているのは酔客ばかりだ。路地の前には派手な格好をした娼婦がずらりと並んでいる。(同じ貧乏人でも女はまだマシだ。こういう風に娼婦という道が残っている。まあ、若いうちだけだがな)


一人の娼婦が高級車に乗り込んだ。(あれ、乗り込んだ女はカタリナじゃないか?カタリナは夜はレストラン&バーに勤めていると言っていたけどな)


ルドラは少し気になり、路地裏に止まっている車を覗き込んだ。(まさか、車の中でやったりはするまい)ルドラが見たものは男がカタリナの首を締めている光景だった。


ルドラは車のドアのガラスを割り、男を引きずり出して殴りつけた。その間にタリオがカタリナを救い出したが、不味いことにルドラは勢い余って男を殺してしまった。


ルドラとタリオは男を路地裏に放り出して車に火をつけ証拠を隠滅した。


今回はここまでにいたしましょう。次回をお楽しみに。

 

後書き

物語の終盤、時の流れは一層激しく、運命は予測不能な曲線を描く。ルドラは己の歩んできた道と未来への希望の狭間で、静かに問いかける。「果たして、この道は光か、影か?」成功と挫折、栄光と哀愁が交錯する中、彼の魂は新たな覚悟へと導かれる。歴史の断面に刻まれるその足跡は、読者一人ひとりの心にも、深い余韻と問いを残す。未来への灯火が、次なる物語の始まりを告げる―。

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