第5話 四月下旬の午後のこと

 あの後は、ざっくり言って大変だった。


 僕の知識をちょっと披露した所で、

「革新的だ!」

 と侯爵が事業展開するとか言い出したり、なんやかや……。


「娘の表情一つだけで、侯爵邸に忍び込んで来るとは!」


 と変に度胸を買われたり。

 要約すると気に入られたらしい。

 時々アドバイザー的に呼び出しをくらっている。


 侯爵と話している間は、ジャスミン嬢が隣にくっついて、

「私の為にそこまで……」

 と、頬を染めていた。


 ……てなことから十数日後の今。

 昼間から侯爵邸にお邪魔していた。


 例の第三王子というのは、立場を笠に着た横暴な振る舞いが目立つ、学園では一つ上の先輩。


 気に入った女の子は、貴族平民問わず手を出し、逆らう者には手勢を向けるという、評判のよろしくない方なんだよ。


 そんなのにいきなり婚約って言われても、「はい喜んで♪」とはならんわな。


 で、なんでこいつの横暴を止められないかというと、第一と第二王子は側室の子で、第三が正妃の子だということ。


 側室の一人である第一王子の母親と国王は恋愛だけど、正妃は隣国との政略結婚という複雑なお家事情によるらしい。

 よく知らんけど。


 と言うことで、『対第三王子』計画。侯爵と僕による『無くなったなら、あげること出来ないよね』作戦がはじまったのである。


 要するに、

①婚約パーティー中に、ジャスミン嬢が襲われる。


②混乱の末、悪漢はジャスミン嬢を殺害。

※実際はこっそり保護。


③侯爵家は後日養子を取る。


④養子の嫁として素性を変えたジャスミン嬢を迎え入れる。


 これで晴れて家族は離れなくて良くなる!という物である。


 しかし……、

「自分で言っておいてなんですけど、上手くいくものですかね」


 なんて、ちょっぴり不安になったりもしたんだけど、


「その為の我々サポート部隊です」


 そんな僕に真っ赤なコスチュームを手渡してくれるのは、執事長のマッカランさん。


 グレーの髪が似合う、ザ・セバスチャン!な方である。


「まあ、頑張っていただいていることは承知しておりますよ。この服なんて僕は理論と簡単な実証試験しかしてなかったのに、あっという間に出来てるし。

 流石侯爵家としか言いようがないね」


「カイル様ご自身が試作を作れる程には、手に入りやすい素材でしたから。

 ちなみにデザインはお嬢様のアイデアでございます」


 なるほどね~とコスチュームに袖を通せば、全身真っ赤男の出来上がりだ。


 素材はマッドカメレオンという『奇獣』=所謂モンスターの皮。

 こいつは全長が三メートルはあるバカでかいカメレオンで、やっぱり体の色が変えられるんだよね。


 で、そのシステムっては耳の後ろにある器官が周囲の色を認識して、それに合わせて体表の色を変化させるという物。


 なので、それをアレンジ再現させてしまうと……。


 手首のスイッチを押すと、着ているコスチュームの色が赤から黒に変わった。

 周囲の色ではなく、任意の色に変われるという代物だ。


「敢えて真っ赤な目立つ色で人目を引けば、暗がりで黒くなったら意識の外ってね」


「良い発想かと思います」


「基本が派手過ぎるのが難点だけど」


「それが目的ですし、お似合いですよ」


「ありがとう」


 とお礼を言っていると、ノックの後にジャスミン嬢がやって来た。

 今日は長い銀髪をシニヨンに纏めていた。

 美少女はなんでも似合っていいね♪


「お邪魔しております。ジャスミン様」


「作戦の同志ですから、お気軽にジャスミンとお呼びください」


「しかし、侯爵家のご令嬢を男爵家の者が呼び捨てなど……」


「来月には、私は平民扱いです」


「申し訳ありません。僕が変な提案をしてしまったばかりに」


「いいえ。恐らくこれが最前手。それに、私も楽しんでおりますのよ」

 と笑っている。


「それに、衣装もお似合いで嬉しいですわ♪」


「自分で目立つ色をと言っておきながら、赤は些か派手すぎかなと反省しておりますが」


「大丈夫です。それに、お恥ずかしいながら、デザインは私がさせていただきましたの」


「そうよ。娘も楽しんでいるのだから、貴方も肩の力を抜きなさい」

 と部屋に現れた新たな人物は、マーガレット侯爵夫人。


 ジャスミン嬢の母親だ。


「お邪魔しております、侯爵夫人。

 今回のこと、夫人がお留守の間に色々と決めてしまい、申し訳ありませんでした」


「いいえ。寧ろ貴方が居てくれなければ策も無く、娘の人生は終わっていたでしょう。

 本当にありがとう」


「勿体ないお言葉です」


「それに先程も本人が言いましたが、メイドの仕事を覚えることも含めて、娘も楽しんでいますわ」


 そうマーガレット様は言っているが、来月には娘と離れ離れ。

 寂しさもあると思う。


 なので、僕は話題を変える。

「そうですか。それはなによりで。

ところで、迎賓館の方は如何でしょうか?」


「当家最愛の娘の婚約パーティーですから、一分の抜かりも無きよう、我が家の総力を結集する故、部外者の出入りはご遠慮いただいておりますわ」


「まあ、恐らく室内はズタズタになりますから、出来るだけ張りぼてでお願いします」


「娘の晴れ舞台ですのにね」


「本当の晴れ舞台は数年後でしょうから、その時までお気持ちは取って置いてください」


 僕が笑顔でそう言うと、マーガレット様は「そうね」と微笑んだ。


 来月行われる婚約パーティーは、侯爵家が取り仕切るということで、迎賓館が使われることになったのだ。


 国の要人が集まるし、第三とは言え正妃の息子の婚約パーティーだからね。

 そんじょそこらで出来ないよ。


 そこに「娘の一世一代の晴れ舞台だから!」と侯爵様が捻じ込んで、装飾運営諸々を自ら取り仕切ることとした。

 ついでに古くなった箇所の改修も行う許可を取りつけたんだけど。


 さて改修場所は、ホントに『古くなった箇所』なのかな~。


問。侯爵一家の僕を見る目が……なんかオカシイ気がするのですが?

解。無自覚野郎って、ホントにいるんですね。

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