第4話 四月半ばの夜のこと

 話は少し過去になる。


 僕は黒装束に暗視ゴーグルという不審者丸出し姿で、だだっ広い廊下を歩いていた。


 壁に掲げられた電球だけが光源の、薄暗く長い廊下。


 足下のカーペットはふかふかで、足音を消してしまうその様に、全く防犯に向いてねーなと、頭の中で独り言ちる。


 まあ、何かしようって段になったら、最後のコレがあるからな~と、如何にも分厚そうで重厚な扉が目の前にそびえていた。


 絶対無音では開けられないだろうな、コレ。

 それで実際はどうなんだろうか?と扉に手を添えた時、不意に室内の声が聞こえてきた。


『解析』スキルの派生、『聞き耳』のおかげだね。


 この世界には魔法は無いが、『スキル』という物が存在する。

 生まれついての『特殊才能』『特殊技能』といった感じかな。


 誰もが一つ持つとされるその『スキル』だが、勿論ゲームにも登場する。

 って言うか、ゲームを盛り上げる為の演出だね。そっちが先。


 で、僕のスキルのである『解析』だけど、どうも前世で培った技能=スキルが、こちらの『スキル』として備わったようだ。


 さらに七歳から頑張って「『解析』を『解析』して育てた」結果、閉ざされた「壁向こうや遠くの音を『解析』する『聞き耳』」を会得することができた。

 『スキル』の派生というか?ツリーというか?


 で、文字通りの『聞き耳』をたててみると……。

 恐らく侯爵とそのご令嬢の声。


 なんで判るかって?

 ここが深夜の侯爵邸だからさ!


 なになに?


「もう仕方がないでは無いですか……私には、もう道がありません」


「しかし……。陛下には私から進言している。

 直接ではなく宰相経由となってしまうが、もう少し耐えてくれ」


「無理ですよ、お父様。もし陛下に第三王子を止めることが出来るなら、こんな悪評は立ってはおりません。

 今日も、急に呼び出されたかと思えば、舐めるような目で……。婚約パーティーは来月だと」


「なんだと!そんな話は聞いていない!」


「そうだ!聞いていない!」

 と、思わず僕は扉を開けてしまった。


 決して開けてはいけない扉を。

 僕の世界が変わる扉を。


「誰だ!」


 侯爵が叫ぶが、まあそうだよね。


 でもここで人を呼ばれても困るので、一先ずご令嬢であるジャスミン嬢の眉間にダガーを投擲。


 そのまま頭に突き刺さるかの軌道で飛んだそれは、ジャスミンの額から一センチほどで停止した。


「動かないで!騒がないで!怪しい者ではありません!」


「いや、それは無理があるだろう!」


「無理は承知ですが、諦めてください!

 今は僕のスキル『固定』で止めているダガーを解除すれば、今現在蓄積されている運動エネルギーが解放されて、お嬢様の頭が吹き飛びます」


 そう。僕には『解析』の他にも『固定』のスキルがある。

 あといくつあるかって?

 それは内緒。


「むー、卑怯な!第三王子の手の者か」


「やだよ、あんな変態と一緒にしないで!

 僕は慈善活動の途中なの」


「慈善活動……だと?」


「そうコレ!」


 ズボンのポケットに突っ込んでおいた紙の束を侯爵に向かって投げた。


 バラバラと舞ってしまいそうだが、『固定』しているので束のまま侯爵の手に渡る。

 そこで解除すれば侯爵にも読めるだろう。


「こ、これは我が家のセキュリティーシステム」

「そう、問題点を全部書きだしておいたから、直しておいてね」


 とウインクしても、男が男にしてもつまらない物だな。


「何故こんな……」


「ジャスミン嬢が学園で暗い顔してたからさ、侯爵家と言えば国宝級の秘宝『乙女の涙』じゃん?

 それの強奪予告でも来たのかな~と思って、セキュリティーチェックに来ました!

 慈善活動で!

 そしたら顔が暗い理由は第三王子だって?

 聞いてないよ、そんなの!」

 と、侯爵を信用させるためにゴーグルを外した。


「ああ、そう言えばお顔を拝見したことがあるような……」

 隣のクラスですけどね。

 入学からそんなに経ってないのに、ハッキリと覚えてはいないだろ。


「しかし、我が家のセキュリティーは最新式のはずだが……」


「意図的かどうかは分からないけど、改悪って知ってます?

 セキュリティーの強さなら、2世代前が最強です」


「そんな……」


「あくまで推測ですが、賞金首が手を出しやすいようにしてんじゃないですか?」


「何故?」


「賞金首レースが盛り上がるから?

 ちなみに証拠はコレ!」


 と、今度は実物の『乙女の涙』を侯爵に投げる。


 涙滴形の青いダイヤモンド。

 そこそこの大きさで、もの凄い値段がするけど興味は無いかな。

 とりあえず実物を手にしたことで、侯爵も悟ったようだ。


「ホントは紙と実物を侯爵の机に置いて、気をつけてねって書き置きを残すだけのつもりだった」


「そ、そうか……。君は、ひょっとして噂の『妖精さん』か?」


「そう呼ぶ人もいますね」


 そうそう。時々『解析』を使って狙われそうな家に警告したり、困っていたら助けたりしてるんだよね。


 ついた渾名が『妖精さん』。

 夜中の内に片づけるから、そう呼ばれるようになった。


 まあ、ホントの理由は慈善事業じゃなくて、犯罪に手を染める事無く『スキル』を鍛えたかっただけなんだけどね。


 でもその『妖精さん』の名前のお陰で納得できたのか、侯爵とジャスミン嬢の体から力が抜けていくのがわかった。


「オーケー。害意が無いことを分かって貰いただけたら……ジャスミン嬢、ちょっとダガーから離れていただけます?」

「はい」


 と素直に動いて貰った所でダガーを『紅蓮』の炎で消滅させる。


 その様子に、侯爵とジャスミン嬢の目が丸くなった。

 お偉いさんの驚く顔は、前世も今世も楽しいね。


「ちょっと待ってくれ。君はさっきスキルは『固定』だと言ったね。では今の炎は……?」


「スキルですけど?」


「そんな馬鹿な!スキルは一人に一つの筈だ!」


「正確には、いくつか持ってる人もいるけど公表したら不公平と感じる者がいたり、いくつものスキルを均しく伸ばすのは大変だから、一つと言うことにしてるだけですよ。教会が」


 と、今さらながらに口調を改めておく。

 さっきまでは非常事態だから許してね。


「ちなみに侯爵閣下はあと二つ。ジャスミン嬢は一つあります」


「それも『スキル』かね」


「ええ『解析』という物ですよ」


 信じられないという顔で天井を仰ぎ見る侯爵閣下。

 そしてジャスミン嬢はと言えば……。


「凄いです!こんなこと誰も知らない!私の知らない世界があるのね!」

 と俺に抱きついてきた。


問。えっと、なんでこうなってるんだっけ?

解。己の迂闊さです。

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