第13話「親友の告白」
教室の片付けは予想以上に時間がかかった。青と紫の装飾を丁寧に外し、来年も使えるよう箱に収納する。テーブルや椅子を元の位置に戻す。黒板の飾りを取り外す。疲れていても、みんな達成感に満ちた笑顔だった。
「佐倉さん、これでいい?」
高橋くんが天井のオーナメントを外し終わり、箱に入れて私に渡してきた。
「うん、ありがとう」
「今日は大成功だったね」彼は満足げに言った。「特に装飾は評判良かったよ。君たちのおかげだ」
「みんなのおかげだよ」
謙遜する私に、高橋くんは優しく微笑んだ。「そうだな。でも佐倉さんと望月さんのセンスが光ってたよ」
星奈の名前を聞いて、ふと辺りを見回す。彼女の姿が見当たらない。すでに校庭に向かったのだろうか。胸が少し早く鼓動する。
「あの、私そろそろ行くね」
高橋くんに声をかけ、教室を出ようとした時、背後から声が聞こえた。
「陽花、ちょっといい?」
振り返ると、クラスメイトの美咲が立っていた。小学校からの付き合いで、私の数少ない親友の一人だ。普段はあまり一緒にいる機会がなかったが、テスト前には一緒に勉強したり、悩みを打ち明け合ったりする仲だった。
「あ、美咲。どうしたの?」
「ちょっと話があるんだけど...」美咲は周囲を見回して小声で言った。「二人だけで」
その真剣な表情に、何か重要な話だと察した。でも、今は星奈が待っている。
「ごめん、今急いでるんだ。後にしてもいい?」
「お願い、すごく大事なの」美咲は私の袖を軽く引いた。「5分だけでも」
困った。星奈を待たせるのは気が引けるが、美咲の様子が尋常ではない。
「わかった。でも本当に短くお願い」
美咲は安堵の表情を見せ、私を廊下の隅へと導いた。人通りが少なく、二人きりで話せる場所だ。
「実は...」美咲は深呼吸をしてから言った。「私、星奈のことが好きなの」
その言葉に、私は息をのんだ。予想外の告白だった。美咲と星奈は確かに知り合いだったが、特別親しいわけではなかった。少なくとも私が知る限りでは。
「え...」
言葉が出てこない。心臓が早鐘を打ち始めた。
「驚いたよね」美咲は苦笑いした。「実は前から気になってたんだ。でも最近、文化祭の準備とかで星奈の頑張ってる姿を見てて...もう抑えられなくなっちゃって」
美咲の瞳は真剣だった。嘘や冗談ではない。彼女の感情は本物だ。私の胸に鈍い痛みが走る。
「そうだったんだ...」
「陽花は星奈の一番の親友でしょ?だから相談したくて」美咲は少し不安げに続けた。「星奈って...もしかして誰か好きな人いるのかな?」
その質問に、胸が締め付けられる。星奈の「大切な話」。それは私への想いなのか、それとも別の何かなのか。今はわからない。
「それは...」私は言葉を選びながら答えた。「自分から言ってくれないと、わからないよ」
「そっか」美咲は少し肩を落とした。「でも、私、告白しようと思うんだ。文化祭が終わって一段落したこのタイミングで」
その言葉に、私の心臓が止まりそうになった。美咲が星奈に告白する。親友同士の三角関係。こんな状況になるとは。
「そうなんだ...」
精一杯の平静を装うが、声が少し震えていた。美咲は気づいただろうか。
「陽花...」美咲は真剣な表情で私を見た。「私、星奈のこと本当に好きなの。陽花は...どう思う?」
直球の質問に、息をのむ。美咲は私の気持ちに気づいているのだろうか。それとも純粋に友達としての意見を求めているのか。
「美咲が本気なら...」言葉が途切れる。何と答えるべきか。自分の気持ちを優先すべきか、親友を応援すべきか。「がんばればいいと思う」
精一杯の笑顔を作る。美咲は安心したように微笑んだ。
「ありがとう、陽花。実は怖かったんだ。陽花が何か言うかもって...」
「どうして?」
「だって、陽花と星奈はいつも一緒だから。もしかして陽花も...って思ったの」
やはり気づいていたのだ。私は視線を逸らした。
「そんなことないよ」
嘘をつく自分が嫌だった。でも、今この状況で本当のことを言うべきだろうか。美咲は私の親友だ。彼女の気持ちも大切にしたい。
「そっか、よかった」美咲はほっとした表情で言った。「陽花にならきっと応援してもらえると思ったんだ」
胸が痛む。このまま黙っていていいのだろうか。でも、美咲の真剣な表情を見ると、何も言えなくなる。
「いつ告白するの?」
「今日...」美咲は少し恥ずかしそうに言った。「この後、星奈を探そうと思ってたんだ」
心臓が跳ねた。今日?この後?星奈は今、校庭で私を待っているはずだ。彼女の「大切な話」を聞く前に、美咲が告白するかもしれない。
「そうなんだ...」
混乱した頭で必死に考える。どうすればいいのだろう。星奈に電話する?美咲に本当のことを言う?何も言わずにこのまま星奈のところへ行く?
「陽花、ありがとう」美咲は私の手を握った。「話を聞いてくれて。すごく勇気が出たよ」
その笑顔に、言葉につまる。親友の幸せを願うべきなのに、複雑な感情が渦巻いていた。
「美咲...」
「大丈夫、自信持って言ってくるね」美咲は明るく言った。「結果はまた報告するよ」
そう言って、彼女は廊下を歩き始めた。校庭へと向かう方向だ。星奈のもとへ。
立ち尽くす私。頭の中は混乱していた。どうすればいいのか。今すぐ星奈のもとへ行くべきか。でも、美咲の気持ちは?自分の気持ちは?
ポケットの手紙が重く感じられた。星奈に伝えようと思っていた気持ち。今でもその気持ちは変わらない。でも、美咲の告白を知った今、単純に自分の気持ちだけを優先していいのだろうか。
「陽花?」
突然名前を呼ばれ、はっとする。振り返ると、田中さんが立っていた。
「大丈夫?顔色悪いよ」
「あ...うん」
「望月さんのところに行くんじゃなかったの?彼女、校庭で待ってるみたいだけど」
田中さんの言葉に、現実に引き戻される。そうだ、星奈が待っている。「大切な話」がある。それを聞かなければ。
「ごめん、行ってくる」
私は急いで階段へと向かった。心臓は早鐘を打ち、頭の中は混乱したままだ。でも、一つだけ確かなことがある。星奈に会いたい。今すぐに。
校庭に出ると、夕暮れの空が広がっていた。文化祭の熱気が冷め、静けさが戻りつつある。桜の木の下に、星奈の姿を見つけた。彼女は少し不安げに辺りを見回していた。
その瞬間、美咲も校舎から出てきた。彼女も星奈を探している。私は立ち止まった。どうすればいいのか。
星奈が私に気づき、手を振った。その笑顔に、胸が痛んだ。
一歩踏み出そうとした時、美咲も星奈の姿を見つけ、彼女の方へ歩き始めた。二人の距離は私よりも近い。
このまま美咲が星奈に話しかけるのを見ているべきか。それとも、自分も星奈のもとへ行くべきか。親友の告白と、自分の気持ち。どちらを優先すべきなのか。
複雑な感情を抱えたまま、私は立ち尽くしていた。夕暮れの校庭で、これから起こることへの不安と期待が入り混じる心で。
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