stage1 俺はちょっと未来が分かる
薔薇が咲き乱れていた。翼を振り、フェリは呟いた。
「私行かなくちゃ」
「どうして」
ツェリは泣き始めた。純白の翼が舞い散った。
「お別れするのは嫌だわ」
「でも」
フェリは決意の面持ちで立ち上がった。
「下界の時の流れは速いの。行かなくちゃ。あの子が待っているの」
「放っておけばいいじゃない・・・・・・」
フェリを想うあまり我儘を言い出すツェリに、黒の翼を広げたフェリは悲しくも笑ってみせた。
「いつか姉さんにも分かる時が来るのよ」
「皆、下界に行く時にはそう言うの。それで去ってしまうのよね」
さよなら、フェリ。姉のその言葉を背に受けてフェリは天界を後にした。
青い双眸はまるで来たる未来を知るかのように憂いと微かな希望を湛えていた。
太陽が差し込んだ、薄暗い部屋の中でコウは目を覚まして呟いた。
「今日も悪いことが起きるな」
食パンを齧りながら高校に向かう。遅刻気味のせいで、中々同級生に会わない。それでもいつものゲーセンの前にはカイが待ちくたびれた様子で立っていた。
「お前な、一緒に行くっつったら普通早く来んのな」
「ごめんって」
並んで歩き出した時、自転車が車道から横切って歩道にハイスピードで突っ込んできた。やれやれと呟きつつ、コウは慌てるカイを引っ張って危うく自転車を避けた。その自転車は謝ることもなく走り去った。コウはため息をついた。
「わけわかんないね」
「僕はお前のその落ち着きっぷりが不安になるよ」
こういう時は、もっと危機感を覚えるんだ、と説教をかますカイにコウは苦笑してみせるのだった。
教室に着くとリエとサヤが手を振ってきた。
「もう朝礼終わったよー」
そうリエが言う。サヤはコウの食パンに目をやり、
「カイだけでも早く来れば良かったのに。後その食パンちょうだい」
「食べかけやれないよ・・・・・・」
リエがそれを聞いて頬を膨らませた。
「意地悪だな、コウは」
「いやいやいや、やれませんからね」
残りを一口で食べてしまうと、サヤは、あーと声を上げた。コウは悪かったのかと仕方なく隣のカイに話しかけた。
「カイ、なんか持ってないの」
「僕にたかるなとか色々突っ込みたいが、まず授業だと思わないか」
「偉そうなこと言ってー」
「リエちゃん、もうチャイム鳴ってるんです・・・・・・」
その言葉通り、確かにチャイムが鳴っており、教室の扉が開いて先生が入ってきた。コウは慌てて一番後ろの自席に座った。
この授業は当てられるなと思った。宿題などやっていないことを思い出し、少し気持ちが落ち込んだが、まあ仕方ないかとコウは教科書をめくる手を止めて開き直った。問題の答えを先生に聞かれたけれど、「わかりません」と言い退けて、ちょっと申し訳なく席に座り直した。後ろめたくなるなんて、妙に律儀なんだからなあとはよくカイ達に言われたものだった。
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