第2話 アリス

5つのときだっただろうか。

その日を、鮮明に覚えている。

自宅前、保育園バスを降りても母も父もお迎えに来なかった。


 友達にも、先生にも褒めてもらえる自慢の父母だった。


淡い茶色の短髪で、背が高くて大柄で、ママと私のことが大好きで、賢くて優しくて。

いっぱい甘やかしてくれて、たまにママに怒られてて、不器用にくしゃっと笑うパパ。

  

オーロラのように光る白髪をポニーテールにした、背筋のすらっとした美人で、パパと私のことが大好きで、ちょっと抜けてて、厳しいけど優しくて、ふわふわ笑うママ。


 2人とも同じ職場で働いてて、ママは薬剤師、パパは警備員だって言ってた。

 学生時代から武道のお稽古を続けていて、ママは長刀、パパは弓道の有段者。

 おじいちゃんもおばあちゃんも、父方も母方にもいなくて、私たちは三人家族。

 困ったときお仕事のお友達の、はるとくんとさやなちゃん が、時々助けに来てくれた。

 

 とても穏やかな日々を過ごしていた。

 休日には公園ピクニックに行ったり、お庭のお花をお世話したり。

 ママの勧めで剣道と合気道を習ってて、家では2人から“おべんきょう”を習ってた。

 今思うと、私が1人でも生きていけるように、だったのかもしれない。

 小学生レベルの算数、国語、噛み砕いてたけど、かなり専門的な医術、薬学、武術も。


お迎えが来ないから、保育園バスの先生がついてきてくれた。

お仕事が遅くなる時は、夕方預かりの連絡があるはずだったから、少なくともどちらかは家に帰ってきてるはずだった。


鍵は、開いていた。


子供心に、おかしいと思った。

私のことをとても心配していて、お迎えに来なかったことなんてなかったから。

ママもパパも戸締りにはとても厳しかったから。


扉を開けて、中に入った。木の模様と白を基調にした、清潔感のある一軒家。

私たちの、自慢のおうち。


白木のフローリングに、


赤が鮮やかだった。

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