第2話Ⅱ
何か赤い液体が、床にべったり
壁にはに引き摺るような跡が、
廊下の奥へ、リビングに向かって続いていた。
電気のついていない暗い廊下の、唯一の彩度は赤だった。
リビングに、2人はいた。
書斎もあったけど、ママはよくリビングでお仕事をしてた。
家事もほとんどリビングでするから、大体いつもそこにいた。
パパもおうちに帰って来ると、ママと私を見て頬を緩ませてから、自室へ向かった。
私も、園服を着替えたら、カーペットに座って絵本を読んだり、テーブルについてお絵描きをしたりしていた。
一家団欒のリビング。
入ってすぐの、ソファの前のカーペット。いつもパパとおもちゃ遊びをするところ。ママがそれを眺めるために座る、緑のソファ。パパと私の目と同じ、緑色。
ソファに倒れたママに、パパが縋り付くような姿勢で、2人とも事切れていた。
血の赤で、ソファは黒く染まり、
ママの長い髪が、2人を白く縁取っていた。
ヨル夫婦殺害事件
妻、アイリス・ヨル(享年30)は胸元に一箇所、夫、ソウタ・ヨル(享年31)には下腹部に大きな傷。夫は相当抵抗したらしく、他にも多数の傷があった。妻は心臓を貫かれ即死、夫は玄関あたりで刺された後、リビングで失血死した。凶器は刃物のようなもので鋭く、かなり長い刃渡りであったことしか分からず、犯人と共に行方が不明である。通報者は娘アリス・ヨル(5)に付き添っていた保育園教諭の…
凶悪殺人事件として、こんな内容が報道されていたらしい。
2人を見つけた後、先生は隣の書斎に殺人犯が隠れていないかを確認したのち、私をそこに連れて行き、そこで通報した。私をショックから遠ざけようとしてくれたのだろう。
電話している間も、ずっと震える手で背中を撫で続けてくれた。
自分も相当なショックを受けていただろうに、とても感謝している。
しかし、私はリビングに駆け出した。
いつも、ママに言われていたから。
「もし、ママとパパに何かあったら、ママのネックレスのチャームを食べるように。」
本当に変な言いつけだった。普通に、食べ物じゃないものだ。
理解が追いつかないし、変わり果てた両親を見るのは、心臓が痛くて、辛かった。
でも、
しなきゃいけないことなんだ。ママとの約束を守るんだ。
その気持ちだけで、ママに駆け寄り、首元に手を伸ばした。
チャームを千切り、口に含んだところまでしか記憶にはない。
どうやら気を失ったらしく、病院で目が覚めた。
そのあとは、あれよあれよという間に施設に預けられていた。
お母さんに声をかけられるまで、ほとんど放心状態だったらしい。
今もよく覚えている。
ぱっと見はかなり厳ついけど、誰よりも強くて優しい私のお母さん。
「お前がアリス?」
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