第24話 私の世界
世界の無意味さと無価値さと無感動さ。
正直、私にとってそんなことはどうでもいい。
私はいつもここにいるし、
世界は確かにここにある。
それでよくない?
そんなことより重要なことが、私にはあるのだ。
半年前からずっと悩んでいること。
なにもなければ、もうとっくに告げていたと思う。
だけどなんか彼、忙しそうだったし。
学校帰りは大抵一緒だったから、そのとき言えばよかったのかもしれない。
それでも、いつもタイミングを逸してた。
なんか変な地震とかあったしさ(正確には余剰次元振動とか言うのだとさっき教えられた)。
彼が、そんな『世界』に関わっていたなんて全然知らなかった。
並行世界の私が1023人いて、
その彼女たちと一緒に怪獣と戦っていたなんて、
気づけるはずがない。
まあ、素振りがおかしいなって思うときはあったけどさ。
転校生と怪しい(妖しい?)関係になったり。
家に行こうとしたら全力で拒否されたり(かなり落ち込んだ)。
かと思えば、温泉がどうの、水着がどうのと言いだしたり(べつに連れて行ってくれるわけではなく、やはり落ち込んだ)。
全部、べつの世界の私と『世界の危機』絡みだったのだ。
とにかくいろいろ不可解な素振りが多かった。
それが、私に関心があるのか単にからかってるだけなのか分からなくてさ。
どう反応していいか困った。
まあ、なんにせよ、もうそろそろ一件落着の気配。
どたばたが片付いたら、今度こそはっきり言ってやりたい。
でもなんて言おう?
なるべくさりげなくがいい。
事のついでみたいに。
ストーリィとは無関係なおまけですよ、みたいに。
だっていま彼、SF(それもとんでもなくデタラメな)の真っ只中でしょ?
突然恋愛ものになったって、とっさに反応してくれないと思う。
※
「……やっほー見神楽くん」
「……おう」
まったくもって奇妙な状況だった。
一面の更地。
というかクレーター状の荒野。
そんな感じの、およそ殺伐とした、非現実的で非日常的な風景の中、学ランとセーラー服の男女が挨拶を交わしている。
かなりシュールだ。……シュールすぎて、日本の二次元文化的にはむしろお馴染みといった気さえする。
着陸したヘリから、直、カーネル、それにエムが降りると、周囲には、ほかのメンバーが乗っていたものらしき同型のヘリが何台かあった。
彼らもとっくに逃げ出したのだろう、それらに人が乗っている様子はなかった。
カーネルとエムは、集まってきたWPO職員たちと話し合いを始める。
「あれをそのまま使えばいいんじゃないか?」
「二度手間にならなくてすみまーすね」
みたいな会話が聞こえる。
なんだかわからないが、どうにかなりそうな気配である。
それを耳の端に聞きながら、直は沙詠と顔を見合わせる。
どことなく、気詰まりな雰囲気。
「えっと……久しぶり。なんか、大変みたいだね。世界が滅ぼされそうだった、とか」
「ああ、まあな」
「WPOの人に、事情は教えてもらったよ。見神楽くん、ずっと戦ってたんだね」
「……ああ、まあな」
「あと並行世界の私とイチャイチャラブラブしてあんなことやこんなことも」
「それはやってない」
ふと気づくと、カーネルとエムが白い目でこちらを見ている。
「さすが日本人、ハーレム大好きのHENTAI文化でーすね」
「だからやってないっつってんだろ!」
「ああ! 無駄話をしている場合ではありまーせんね。早くまいりましょーうか」
「振ってきたのお前らだからな!」
というわけで4人――というか3人と1匹――は地下基地へ向かった。
どことなくゴーストタウンめいた、閑散とした通路を進む。
忽然と乗組員だけが姿を消した幽霊船マリー・セレスト号……とまではいかないが、それに近い雰囲気だ。
「この基地の最深部にあるGIF……グラヴィトン・インストール・フォーマを過剰起動させ、ここの兵装を全てエネルギィに変換すれば、1024の並行世界は跡形もなく消し飛んでいたでしょーうね。剛武郎博士は、何度もこの方法を使っていまーした。まあ、それは解除したので、今はもう安全でーす」
カーネルのむやみに陽気な声が響く。
直と沙詠は、無言で話を聞くしかない。
一体なにをどうすれば、事態の解決――テセラクトを排除しつつ消えた委員長を元に戻す――が可能なのか、想像もつかないのだ。
「とはいえ、現在停止中のテセラクトも、あと1時間後には活動を再開する。剛武郎の仕掛けによって世界を破壊するまで拡大する。あまり猶予はない」
横から――というか下から――エムが口を挟む。
「1時間もあれば充分でーす。すでに準備は整っていまーすからね」
カーネルはそう言う。
ちょうど辿り着いた突き当りの、扉横のスイッチを押す。
体育館ほどの広さの、格納庫のような場所だった。
そこに、まったく違和感なく鎮座している人型の物体。
すなわち、巨大ロボット。
柵越しにその光景を眺める。
沙詠は、まったくの未経験者なので、すごいすごいを連発している。
剛武郎がいたらさぞ喜んだだろう。
そこには、直と沙詠が乗っていたHTMの、おおよそ2倍のサイズのロボットがあった。
HTMの身長がたしか18メートルと聞かされていたから、これは36メートル程度だ。
形状はほぼ同じ昆虫的なものだが、下半身が丈夫になっている気がする。
ロボットは肩にDOC――例の巨大な大砲を抱えていた。
無論、2倍になっても支えられるサイズではない。
砲塔の各所に支柱が取り付けられていた。砲口は、45度の角度で下を向いている。
周りではかなりの数の人間が作業を行っていた。
「ねえあれ本物? ホントに動くの?」
沙詠が妙にはしゃいでいる。
もしかしたらこういうのが好きなのかもしれない。
エムが律儀に返答した。
「本来は可能だが、現在はDOCでPNGを射出するために脚部を固定されているので動かすことはできない」
「ふーん。それは残念」
口を尖らす沙詠。
直には物珍しい表情だった。
しかし、先に話を聞いているとはいえ、アルファベットだらけの説明によく対応しているなぁ――と直は感心する。
さすが委員長だ。
直など、半年バカ騒ぎに付き合って、いまだに覚束ない。
「……ん?」
とそこで、さすがの直も気づく。PNGとは確か、あの卵型の機械のことだ。
嫌な予感がする。
「ちょっと待て」
「ん? なんでーすか?」
「なんでPNGなんだ? 俺たちがロボットに乗り込んで、DOCでテセラクトを打ち抜く、とかそんな作戦じゃないのか?」
「おーう。それじゃあこれまでの殲滅戦と変わりませーんですね。DLLやDOCなどの次元兵器でテセラクトを殲滅できるのは、それに対応する大隈沙詠が攻撃を行うからでーす。『この世界』の彼女が同じことをしても、テセラクトは倒せませーん。逆に、テセラクトを残して、『世界群』が消滅するかもしれまーせんね」
「じゃあ、どうするんだ?」
「作戦の概略を説明しよう」
沙詠にHTMの仕組みを解説していたエムが言ってきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます