第7話

「これ全部売り物なんだ!」

 櫓から下がる風鈴の値札に気がつき、紗都は声を上げた。

「風鈴祭りって、風鈴市だったんだね」

 黎奈が楽しそうに目を細める。


 釣り鐘のような金属製もあれば陶器でできたものもあり、見た目にも涼しそうなガラス製もある。形や柄は実に様々で、見ているだけでも全く飽きない。


「買って帰りたいけど、ひとつを選ぶのは至難の技ね」

「ほんと。どれも素敵。美濃焼に瀬戸焼、伊万里焼に津軽びいどろ」


「こっちは南部鉄だって」

 南部鉄の風鈴は心なしか落ち着いた音がしている気がする。陶器はまろやかに心地いいし、ガラスの硬質で華やかな音も楽しいし、どれも風情があっていい。


「風鈴の音を聞くと実際に体感温度が下がるらしいよ」

 ふと思い出して紗都が言うと、黎奈は驚いた声を上げた。


「そうなの!?」

「脳が涼しいって勘違いするんだって」


「脳ってけっこう杜撰なのね」

「でも外国の人は涼しいとは思わないんだって。キレイな音だね、くらいで」


「面白いね。文化の違いのせい?」

「風鈴が鳴ったときに涼しいと感じた体験による、みたいなことがネットに書いてあったよ」


「じゃあ洗脳みたいな?」

「洗脳は言い過ぎかな」

 紗都は苦笑した。


「音だけで涼しくなれるとかお得よね」

「見た目も楽しいし。だるまがかわいい。あっちは猫の形だよ。金魚もいる! あっちは人気キャラクターの」


 見るたびにスマホで撮影してしまう。今日だけでかなりの枚数になりそうだ。

 変わった風鈴を見るたびに感想を言い合い、どれか買う? でももう少し見てから、と歩いていく。

 結局、最後まで買うことはできずに風鈴の回廊を抜け出てしまった。


「選べなかった……とりあえず休憩する?」

「そうしよう!」

 立ち並ぶ屋台を眺めて紗都は頷いた。

 過酷な暑さに、ふたりはかき氷の店に並んだ。

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