箱の中の惨状
かりんと
箱の中の惨状
私は、雛人形の箱を開けるのが怖い。
2月中旬辺りになると、毎年お雛様を飾らねばと焦る。
我が家の雛人形は、顔がすっきりしていて、どこの家よりも美しい。
きっと、誰もが思っていることだろうが。
その昔、私と妹にと祖父母が買ってくれた7段飾りの物だ。
段を組み立て、真っ赤な毛氈を丁度良い具合に敷いていく。
そして、とても大きないくつかの箱から、人形達を取り出し丁寧に飾り付け、道具を並べていく。
雛壇が完成していく高揚感もあったが、空き箱となった箱の山の片付けも残っており、さらにはひな祭りの後の片付けを思うと憂鬱にもなる。
そんな事もあって、面倒くさがりの私は子供の頃から、この時期がもともと好きではなかった。
そして、大人になり結婚し、私には娘ができた。
すると、私の母が、実家から私達姉妹の雛人形を送ると言ってきた。
当時、狭いアパートに住んでいた私は、設置する場所も大きないくつもの箱をしまっておく場所もないからと断った。
すると、2月に入り母から電話が来た。
人の意見は全く聞く耳なしで、自分が一番正しく、強引で、大雑把な母がこう言った。
「上二段分だけ送ったから」
ガチャン!プー、プー……
何なんだ?
数日後、宅配のお兄さんが段ボール箱を2つを持ってきた。
伝票に、雛人形と道具とそれぞれ書いてある。
気になるのは、ワレモノにも天地無用にもなっていないことだ。
しょうがない!
来てしまったからには出さねば……
多少憂鬱な気持ちで、チェストの上を片付け、道具と書いてある箱を開ける。
毛氈が一番上に入っていたが、折り目がついていたので、アイロンをかけて、チェストの上にかける。
とりあえず、それぞれの配置をそれとなくイメージする。
まずは屏風と雪洞が出てきた。
親王台を組み重ねる。
そして、三宝と菱台と高杯も入っている。
さあ、後はお人形を並べるだけよ!
お人形と書いてある段ボール箱を開けてみた。
そこには、惨状が広がっていた。
男雛も、女雛も、三人官女も、
男雛の膝の上に、三人官女の一人が座っている。
残りの二人の三人官女は、女雛を取り囲むかのように立っている。
なぜか、女雛の手には太刀が握られている。
そして、男雛の頬には縦にヒビが入っている。
何があったのか一目瞭然だ。
修羅場のあとだ。
女雛の手から、そっと太刀を奪う。
いつもは男雛が持っているこの太刀は、中に刀がちゃんと入っていて、鞘から抜ける。
まあ、子供の頃に遊びすぎてグニャグニャになっていたが……
この日から、その刀はどういうわけか抜けなくなってしまった。
あんなに美しいと思っていた女雛のお顔が、この時から冷淡で能面の様に見える。
母が雛人形を包みもせず、ワレモノにもせず、天地無用にもせず、強引に送ってきたせいで、箱の中で大事件が起こったではないか!
首が飛んでいないだけ、良かったが……
その年から、私は、ひな祭りが怖い。
箱の中の惨状 かりんと @karinto0211
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