雀たちのヒナ祭り
「おやおやまぁ、おつかれですのね? まぁまぁ、一杯どうぞ」
ピチュピチュと小鳥が
さっきまで自室のベッドで熱に浮かされていたのに、おかしなことが起きてる。
ここはどこ、と聞き返そうとして目をあげたわたしは、驚きで絶句すると同時に全部を理解した。わたしの前にいたのは、可愛らしい
見回せば、わたしの隣やその隣にも、可愛い着物を着て
昔から、熱が出たり疲れすぎて眠りが浅い夜にはよく、不思議な夢をみた。大抵がこういう奇妙な場所に紛れ込む夢。
目が覚めても
「このお菓子たちはね、繁栄すさまじいニンゲンたちにあやかってみたのですけどね? なかなかどうして、悪くないお味でしたよ。さぁさ、ひとくちひとつまみ、おあがりなさい」
割烹着のおばさん雀に勧められて、周りの子雀たちが雛あられをついばんでいた。そういえば、都会では雀の少子化が進んでいるって聞いたことがある。
人間は雀からは繁栄すさまじく見えているのかな。人間の社会も少子化が問題になっているんだけどな、と思ったことは心の中にしまっておこう。
夢の中で食事って、できるんだっけ。食べたら帰れなくなるとか、そういうことはないよね。ん――でも、帰れなくなって困ることもないん……だけど。
子雀ちゃんたちがみんな美味しそうに食べてるものだから、わたしも思わず、我慢できずに雛あられに顔を突っ込んだ。わぁ、我ながら行儀が悪い!
ほんのり甘くて軽い、懐かしい味わい。どこか香ばしさもあって、とても美味しい。でもやっぱりたくさんは食べれず、ひとくちつまんでお腹がいっぱいになってしまった。
自分が情けなくなってしゅんとしていたら、おばさん雀がえっちらおっちらとわたしの前に来てくれた。
「まぁまぁ、美味しかったでしょう? あたしらはニンゲンみたいに食い溜めなんてできませんからね、食べたいときに食べればいいんですよ。先のことなんてわからんですからね、今日がハッピーなら良しとしましょうね」
わたしは今、おばさん雀のパリッとすべっとした翼で頭をよしよしと撫でられている。これが夢なのは確実だとして、どこまで自分の願望が反映されているのかわからなくなり、ちょっと怖くなった。
母も父もお祖母ちゃんもお祖父ちゃんも、そんな風に言ってくれたことなんて一度もなかったから。
「春はまだ先ですけどね、節目を越えられたことがめでたいってもんですよ。ささやかなめでたいを祝う心が、ハッピーに生きるコツですよ。さぁさ、ぐいっといきなされ」
そうだね、そうかもしれない。きっと長生きできないわたしは、健康や長寿を願われても申し訳ないだけと思っていたけど。今年の節目を越えられた、今年の誕生日に辿り着けたって思えば、幸せを感じることができるのかな。
先のことを考えすぎず、ただ今日という日を精一杯、大切に。おばさん雀の言葉に感動したわたしは、雛あられで口の中が渇いていたのもあり、盃のお水を勧められるままぐいっと――飲み干して、それがお酒だったと気づいた。
あ、目が、回る。
耳に響く、ピチュピチュという賑やかな声。ぐるぐると回り出した視界に、白、ピンク、緑が、踊っている。
意識はスコンと遠のき、夢から覚めるのではなく更なる眠りに落ちたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます