第2話

‐NAHO‐


入学して1週間

天文学の授業は毎回宿題が出る。

その日習った事をテーマに小論文を書くというもの。その小論文は自分でパソコン検索して仕上げてもいいし、大学の資料室で調べながら仕上げても良いって海先輩が言ってたから、今、第1資料室に向かってる。

資料室は2箇所あるけど、ほとんど第1資料室で事足りるから、第2資料室へは先生くらいしか行かないらしい。


初めて入った資料室で、初回のみ登録が必要なので受付へ。


「あの、登録したいです」

「押忍。どうぞぉ」


押忍って、なかなかチャラい感じの銀髪で、ムキムキやマッチョじゃないけど⋯体育会系なのかな??


「学生証出してくださーい」


学生証を出すと、学生証と私の顔をすっごい交互に見てる。

めっちゃ見てるめっちゃ見てる。


「ホクトシチセイちゃん?!」

「ほくと なほです」

「めっちゃロマンチックな名前だねぇ。はい。登録完了!」

「ありがとうございます。」


いい感じの資料書を見つけて資料書と、ノートパソコンを空きテーブルに広げる。

資料室は結構ガヤガヤしてるけど、寮より集中出来ていいかも。


私はそれ以来3日に1回は資料室にきていて、資料室の夏月先生は行くと毎回ニコニコと〝ホクトシチセイちゃん〟って呼んでくれて、よく話すようになった。


今日は土星についての授業だったから、土星の資料を探すつもり。


「押忍!ホクトシチセイちゃん。いらっしゃい」

「夏月先生こんにちは。」

「今日は?なんの資料を探すの?」

「土星ですね」

「土星!サターン。鎮星だぁねえ。「土星の衛星には水があり、生命がいる可能性がある」NASAの研究者がそう言ったって説もあるけど、マイナス130℃の極寒の気候に、地球とは比較にならないほど猛烈な嵐に見舞われる土星本体に生命が住めるとはとても考えられないんだよねぇ

土星と言えばやっぱり特徴は何故土星にだけ輪があるのか?だよねぇ

あの輪っかはなにで出来ているかと言うと、実は氷のかけら。 平たい氷だったら大きなスケートリンクになるけどね、土星の輪は一枚の平らな氷じゃなくて、氷のかけらが無数に集まって輪の形になっているんだよねぇ」


「先生、その話しまるっと小論文に入れて良いですか?」

「先輩の小話を採用してくれるのぉ?」

「へ?先輩?」

「あぁ、自分、ここの卒業生なんさ。6年前のね。第2資料室の悪魔ちゃんと同級生で、卒業して同時入職したんだよぉ」


「悪魔ちゃん??」

「第2資料室の管理者ね。めちゃくちゃミステリアスな空気だけ纏ってる関西ていすと女子で、僕と下の名前が同じ〝莉桜(りお)〟って共通点で腐れ縁やってるんだよぉ」


「腐れ縁ってw」

「あ!!!!!!!」

「びっくりした。どうしたんですか?」

「僕、土星の資料で1番好きなやつ、一昨日悪魔ちゃんの方に持ってったわ⋯めちゃくちゃ場所とるんだけどめちゃくちゃわかりやすいんだよぉ。」


「はぁ⋯⋯⋯」

「あ、今ちょうどホクトシチセイちゃんしか居ないから、悪魔ちゃんの方に一緒に行ってみる?」


鍵を閉めた夏月先生と東校舎の二階の第2資料室へ向かう。


「あーくまー!悪魔ちゃーん」


「なーつーきー。昔からお前はどこの絶世の美女に向かって悪魔ちゃんとかほざいてんねん!ええ!って、せ⋯せ⋯生徒さん?」


確かにめちゃくちゃ綺麗な人。

黒髪ロングで色白で、目が鋭い感じがあるけど、本当に綺麗な人、すっごい関西弁。見た目と喋ってる時のギャップは確かに凄いかも。。。


「ホクトシチセイちゃん。この騒がしい子が、この第2資料室の管理者で、悪魔ちゃんこと、冬馬莉桜。この通り関西人、Sっ気の空気だけ纏ってるから冬馬ちゃんだけど、あくまちゃんって呼んでるんだぁ」


「誰がやかましくさせとんねん!夏月、その悪魔ちゃん呼び、ええ加減やめんかい。」

「悪魔ちゃん、この子、ホクトシチセイちゃん。今日、土星の資料を探しに来てて、一昨日場所とるってこっちに持ってきたシリーズはわかりやすいからおすすめするのに連れてきた。」


「ホクトシチセイちゃん?」

「私の名前が、北斗七星って書いて〝ほくとなほ〟です。よろしくお願いします。」

「なほちゃんか。冬馬莉桜です。よろしゅう。っていうか生徒さんがここに来たん、私が第2資料室の管理者になって初めてやで。資料でも第1でぜんっぜん生徒さんが見ぃひんようなマニアックなんとか、第1資料室とダブってるようなんがこっちに置いてあるもんでなー、くるのは夏月とか、先生がたまーに現れるくらいやねん。でも、こっちは人おらん分広々とテーブル陣取ってパソコンも資料も広げれるし、登録も要らんし、良かったらゆっくりしていき」

「冬馬先生ありがとうございます。」


「じゃあ、自分は第1資料室に戻るから、悪魔ちゃん、ホクトシチセイちゃんに土星の資料を教えてあげてね。ホクトシチセイちゃんの事よろしくねぇ」


「だーかーらー冬馬やっちゅうねん。もぅはよ帰れ!」


「きゃー悪魔ちゃんこわーいwおにーwあくまーw」


夏月先生は笑いながら第1資料室へ戻って行った。


「あぁ疲れた。ほんまに相変わらずやかましい奴やな⋯なほちゃん。資料はこっちやでー」


冬馬先生は土星の資料の棚に案内してくれた。


テーブルにパソコンと資料を広げる。


「なほちゃん、寒いとか暑いとかない?エアコンつけよか?」

「大丈夫ですよ。ちょうどいいです」

「良かった。ゆっくりしていきなぁ。私はソファーのとこ居るから、なんかあったら遠慮なく声掛けて」


「ありがとうございます!」


テーブルにパソコンと資料書を広げて、誰も居ないから雑音もないし、小論文を集中して作れる。


終盤に差し掛かった時、後ろからの冬馬先生の視線を感じて振り返った。


「ごめん。びっくりさせてしもた?」

「いえ、大丈夫です」

「えっらい集中してたなぁ。めっちゃいい小論文書くやん。なほちゃんは文才あるなぁ。もう終わるん?」

「はい。もうあと3行って感じです」

「やったー。お茶しながら喋ろ。コーヒーと紅茶どっちがええ?」

「良いんですか?紅茶でお願いします。」

「ミルクと砂糖は?」

「甘めが好きなので、両方お願いします。」


私は急いで小論文を打ち終えて保存し、天文学の先生にメール送信した。

資料を棚に戻してテーブルに戻ると、冬馬先生が紅茶を出してくれて向いに座っていた。


「小論文お疲れ様」

「ありがとうございます。第1資料室よりも人も居なくて集中出来ました。」

「せやろー。良かったわー。頑張った後の糖分補給せなな。脳は砂糖で元気になるから」


そう言って冬馬先生は星型のクッキーをくれた


「星型だぁ。可愛い!しかもめちゃくちゃ美味しいですよ」


「いやいや、なほちゃん可愛いわ」

「可愛くないですけど

本気でどこで買えるか知りたいくらい美味しいです」


「私が作ったんよ。やから味の保証はないねん」

「すごーい。こんなに美味しいクッキー作れるなんて尊敬しかないです。」

「ありがとう。ほめられたら照れるやん///」


冬馬先生と紅茶を飲みながら色々お話しをした。

冬馬先生とのお喋りは本当に楽しくて、紅茶もクッキーも凄く美味しかった。


「冬馬先生。これからも第2資料室に来てもいいですか?」

「ええよー。いつでもおいで。なほちゃん。メッセージアプリ交換できる?今日の何時頃行くーとか言うてくれとったら確実に開けとくし、小論文だけやなくて、考え事したいでも、私とお茶したいーって寄ってくれてもいいし。好きに使ってええよー」


「嬉しいです!冬馬先生とまたお話ししたいです!」


メッセージアプリを交換して、その日は寮に戻った。


冬馬先生本当に綺麗だったなあ。。。


夜、冬馬先生から〝今日はお茶に付き合ってくれてありがとうなぁ。楽しかったで。またいつでもおいで〟とアプリでメッセージをくれた。


あれから3日に1回は第1資料室に通っていたのを私は第2資料室に通うようになった。


小論文を作る時は毎回、りおちゃがアドバイスをくれたり、りおちゃと話してると本当に楽しくて、ただただお茶をしに行ったりする時もある。


10歳も歳がはなれてるのに離れてるのが嘘みたいに気が合うんだよねー。

関西のノリでお腹痛いくらい笑わせてくれるし。。。


今日はりおちゃが、お菓子を作ったとお茶に誘ってくれたから第2資料室へ向かう。ちょうど、おじいちゃんからたくさんのチーズのお饅頭が送られてきてて、おすそ分けに持ってきた。


「りーおーちゃー」

「なほ。いらっしゃい!」

「おじゃましまーす」

「邪魔するなら帰ってー」

「はーいw」

「なほ、いいねぇ!」


「悪魔ちゃんによる洗脳?魔改造?が進んでる?!ホクトシチセイちゃん!気を確かに!」


「夏月!洗脳でも魔改造でもないわ!」


「あ、夏月先生お久しぶりです。」

「本当に、ホクトシチセイちゃん全然第1に来てくれないし、悪魔ちゃんと凄い仲良くなってるし、僕、僕、寂しかったぁ」


「なほ、キモイやつはほっといてお茶しよか。今日はオレンジのシフォンケーキ焼いてん。」

「美味しそう!!今日はおじいちゃんから送られてきたチーズ饅頭をおすそ分けに持ってきたよー」

「えー。嬉しー!私、チーズめっちゃ好きやねん」

「良かったー」


「⋯お願いします。無視しないでください。そして仲間に入れてください。。。」


「第1開けんでええんかいな」

「今日は誰も来てないし、どこの学年も天文学の授業ないからねー」


「ほれ、粗茶や。くれてやろう。なほは愛情たっぷりあまーい紅茶をどうぞ。」

「りおちゃありがとう」


「僕の扱い雑過ぎない?」

「嫌ならお帰り頂こうか」

「はひ。ごめんなしゃい」


「そう言えば、なほは天文学やって卒業後はNASAとか目指したいパターンの人なん?」

「いえ、私、子供の頃に震災にあって、両親と妹を自然に持って行かれちやって、おじいちゃんに育ててもらったんだけど、おじいちゃんはプラネタリウムを経営していて、私も手伝ってたから星が大好きになって、おじいちゃんのプラネタリウムを継ぎたいって思ってるの」


「なほ、震災で両親と妹亡くしたんやね。そんな話すの辛い事、おしえてくれてありがとう。プラネタリウムかあ。私は小4で関西から、親の仕事の都合で東北に引っ越してきて、プラネタリウムに遠足で行ってハマったのをきっかけに通ってたプラネタリウムが大好きになって、プラネタリウムに就職したかったけど、就職先が見つからなくて、通ってたプラネタリウムも従業員は募集してなくてね。大学卒業後、結局ここで資料室の管理者やってるんよ」


「ホクトシチセイちゃん⋯辛い経験乗り越えて⋯泣⋯泣」

「なほ、私の事お姉ちゃんと思って頼ってええからな」

「ホクトシチセイちゃんと悪魔ちゃん、10歳もはなれてるよ?お姉ちゃんじゃなくておばさ⋯」

「りおちゃみたいな綺麗で料理上手なお姉ちゃん、すっごい嬉しいよぉ」

「だから、おばさ⋯」

「私は1人っ子やから、なほみたいな可愛い妹めっちゃ嬉しいで」

「やったー」

「⋯って2人とも、すっごい華麗に無視するじゃん」

「夏月先生、りおちゃはおばさんじゃなくてお姉ちゃんですよー」

「ああ、聞いてたのね⋯」

「あほ。無視や!シカトや!フル無視や!フルシカトや!存在消しや!」

「そこまで言っちゃうのー!⋯ひどーい。⋯やっぱりホクトシチセイちゃん⋯悪魔ちゃんの影響受けてしまってるんじゃ⋯」

「夏月先生、りおちゃはお姉ちゃんですw」

「嗚呼⋯2人とも、立派な黒い角と羽根と、尻尾がみえるよ⋯」


#3へ続く



























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