第1話 大成功
朝、当たり前のように学校に行く。靴箱を開け、靴を履き替える。それだけの行動に、ものすごい数の視線が向けられているのを感じる。
「わっ、見て見て、亜久津さん……!」
「ほんとだぁ……今日もすっごい綺麗だなぁ……」
「くそっ、亜久津にぜんぶ女子人気持ってかれてる!俺の高校生活おしまいだ……」
「ま、亜久津の良さをわかってるのは俺だけなんだけどな……」
若干、変な声が混じっていない気もしないが、これが私の───
あの日課された「高校生活でモテにモテろ」という無理難題にも思えるそれは、結論から言えば去年一年で簡単に、あまりにも簡単に達成できた。
まず、決して自惚れというわけではなく客観的な事実として。私は、かなり顔が整っている。そもそも悪魔は古来より人を惑わせ、堕とす生き物なので見目の麗しさは標準装備である。だから当たり前といえば当たり前のことなのだ。しかし中学校生活において、私はあまりにも人と関わらなかったがゆえに、せっかくの顔を無駄にしてしまった。なんてもったいない、とお母さんは本気で嘆いていた。
高校生になる直前の春休みに、私はお母さんから徹底的なしごきを受けた。
まず、長く伸ばしていた髪を切るために問答無用で美容室に連れて行かれ、制止の声もむなしくばっさりと切られた。体力の無さを解消するためにジムに行き、「美を磨くためのレッスン」などと言われながら1日3時間みっちりとヨガや筋トレをさせられた。
あの2週間と少し、私とお母さんは親子というよりも師弟のような関係だったと思う。お父さんも若干引いていた。
本気の高校デビューをしなさい、と何度言われたことだろう。というかなんだ本気の高校デビューって。モテるためにはこんなスパルタな修業を経なければいけないのか、と世のモテ女たち、モテ男たちに尊敬の念を抱きながらひたすら己を磨いたのが1年と少し前の話だ。
そんな日々を経て高校に入学した翌日。私は、男子と女子、合わせて5人から告白された。
全員まったく知らない人だったので半信半疑のまま断りこそしたものの、ありがとう、と言って生気を得るために手を握ったその瞬間のことを私は一生忘れないと思う。今まで得たこともない量の生気が手をつたって体に満ちて、おわあ、と思わず声が出そうになった。
ここあちゃん、しろちゃん、ごめん。どうか健やかに長生きしてください。
その翌日も3人から告白されて、私は気づいた。
もしかして、めちゃくちゃモテているのでは?と。
それはどうやら本当のようで、入学して1週間も経てば校内で視線が向けられない場所はほとんどなくなっていたし、秘密裏にファンクラブができているという噂も聞いた。
中学校の頃とあまりに違いすぎる環境に戸惑ってお母さんに電話をしたら、「よかったわね、免許皆伝よ、おめでとう」と涙声で言われて余計に何もわからなくなった。私はいったい何の免許を皆伝したのだろう。あとでお父さんから聞いたところ、お母さんの高校時代もそんな感じだったらしい。
回想が長くなったが、そういうわけで今現在、私はたぶんこの高校でいちばんモテている。本気の高校デビュー、大成功というわけだ。
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読んでいただきありがとうございます!激モテで調子に乗っています。
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