悪魔さんは天使さんを堕としたい
ゴチいちご
プロローグ
「茉央、いい加減にしなさい」
「はぇ……?」
中学校3年生の、なんてことない日。普通に学校に行ってそのまま普通にひとりで帰ってきて、そうしたら何故か怖い顔をしたお母さんが玄関に立っていた。お父さんは横で眉を八の字にして、申し訳なさそうに立っている。
とりあえず荷物を置いて居間に来なさい、と言われて、なにがなんだかよくわからないまま言われた通りにする。すでに両親は卓についていたので、ちょっとビビりながら遠めの席に座る。
「茉央、あなた恋人はいるの?」
「な、え?いない、けど、いきなりなに……?」
「……なら、友達は?」
「そ、それは、いるよ……ここあちゃんでしょ、しろちゃんでしょ……」
学校で飼ってるうさぎだけど。
「はぁ……あのねえ茉央、あなたはクォーターとはいえ悪魔の血を引いているの。お母さんのお父さんはね、それはそれは立派な悪魔だったのよ。
なのにどうして、あなたは15にもなっていまだに週に一回は生気不足で倒れるの?」
「う……」
生気。それは悪魔にとってのいちばん大切なエネルギー。
この世界の生きとし生けるものすべてが大なり小なり持っているもので、私たちはそれを摂取しながら生きている。
ずぅっと昔、それこそ童話なんかで描かれるような本物の悪魔が普通にいた時代は、それこそ生気を吸い続けて最後には人間を殺してしまうなんていう恐ろしいこともあったみたいだけど、今の時代にそんなことをするわけにもいかなくて。生物から自分に向いている好意が大きければ大きいほどたくさんの生気を得られるという性質を利用して、たいていの悪魔は恋人を見つけたり結婚したりして、人間の世界に溶け込みながら生きていくのだ、けど。
「どうせ、さっき言った友達だってハムスターとかうさぎとかそのあたりでしょう」
「うう……っ」
「小動物はそもそも人間と比べて持っている生気がずっとずっと少ないんだから、そこから得ようとしたって足りるわけないってお母さん何回も言ってるわよね?」
「だ、だからほんのちょびっとだけずつもらってて、あ……」
手で口を塞ぐけれど、もう遅い。これでは全部言ってしまったようなものだ。毎回悪魔らしい巧みな話術で誘導されるせいで、お母さんの前で隠し事をできたためしがない。
いっそう険しい顔になったお母さんの横で、お父さんがおずおずと口を開く。
「あのな、茉央……母さん、これでいて茉央のことをすごく心配しているんだ。ほら、茉央が行きたいって言っている高校は遠くの高校だろう?だから、もし倒れても、今みたいに助けてやることもできないんだ。それは、わかってくれるか……?」
「しん、ぱい……」
心配、かけてるんだ、私。そう思うと、なんだか一気に申し訳なくなる。生気とか食べなくても普通のもの食べてたらなんだかんだ生きていけるでしょ、とぼやっと思っていたけれど、親にとって、とくにお母さんにとっては、そんなことなかったんだ。
「……茉央。あなたに課題を課します」
「えっ、あ、はい……!?」
「───高校生活で、モテにモテて来なさい」
「……は?」
口をぽかんと開ける私、怖いお母さん、相変わらず申し訳なさそうなお父さん。
悪魔だからって目立つことなく、できればひっそり生きていきたいよねーという私の人生目標は、こうして高校に入学する前にあっけなく打ち砕かれたのだった。
そしてそれから、2年が経った。
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