第3話

 衣夜里はカフェタイムが終わると、雨月と共にお会計を済ませた。


 そのまま、カフェ・フルールを出る。近くのコンビニに向かう。


「さあて、衣夜里。缶ビールもいいけどさ、チューハイを買おうよ」


「いいよ、まあ。私は雨月程には飲めないけど」


「気にしないよ、衣夜里は好きな飲み物を買って。あたしも適当なのを買うから」


 二人は話しながら、コンビニの前にやって来た。自動ドアの入口をくぐり、中に入る。

 今は初春の三月だから、外はまだ寒い。店内は暖房が掛けてあり、衣夜里も雨月もほっとした。


「じゃあ、私はお茶やおつまみ辺りを見てくるね」


「うん、あたしはチューハイや他のお酒を見てくるよ」


 互いに頷き合うと、分かれてそれぞれの売場に向かう。衣夜里はウーロン茶や手頃なおつまみなどを選ぶのだった。


 しばらくして、二人はレジ袋を両手に提げていた。衣夜里はウーロン茶やかきの種、ピーナッツなどを買った。雨月はチューハイや焼きギョーザ、ラーメンなどを買ったが。


「ふう、たくさん買っちゃった」


「本当にね、衣夜里もギョーザやラーメンは食べる?」


「うん、雨月には感謝しないとね」


 衣夜里が言うと、雨月は照れくさそうに笑う。二人は借家を目指して歩き続けた。


 やっとの思いでたどり着く。衣夜里はレジ袋をコンクリートの上に置いて、ドアの鍵を解錠する。二人で入ると靴を脱ぎ、レジ袋を再度持つ。リビングに行くとレジ袋をテーブルに置いた。


「ただいまっと!」


「はは、お邪魔しまーす!」


 そう言いながら、笑い合う。衣夜里は洗面所に直行した。手を洗い、ついでにヘアピンをつける。メイクを落とし、洗顔もした。

 タオルで水気を拭き、ヘアピンを外す。元の場所に戻していたら、雨月がやって来る。


「あの、衣夜里。ごめん、あたしも洗面所を借りていい?」


「構わないよ、ちょっと待ってて」


 手早く片付けた。雨月は再度、リビングに行く。カーペットの上に置いてあるトートバッグの中から、ヘアピンやクレンジングオイル、洗顔フォームを出した。それらを両手に持ちながら、彼女はやって来る。


「衣夜里、今日はお泊まりするかもしれないから。一応、着替えとかは持って来たよ」


「そう、分かった。大したものは出せないけど」


「いいって、あたしは気にしないよ。さ、メイクを落としたいから。衣夜里は先に着替えて来て」


「うん、ついでに。雨月用の着替えを持って来るよ」


「ありがとう、衣夜里」


 雨月はにっこりと笑う。ちょっと、見惚れそうになるが。衣夜里は踵を返して自室に向かう。自身と雨月用の衣類を取りに行った。


 雨月はメイクを落とし、部屋着に替えた。衣夜里も同じく、部屋着に替えている。二人共、髪をピンで留めてすっかり寛ぎモードた。


「……あー、やっと飲める!乾杯、衣夜里!」


「乾杯、私はウーロン茶だけど」


「うん、衣夜里はそれでいいの。あんな前沢なんかより、あたしはあんたと飲む!その方が倍楽しいしさ!」


「もう、酔ってるね」


「かあーっ、そりゃあね。前沢の阿呆、あたしじゃなくさ。同じ会社の後輩に手を出して、浮気してやがったのよ!しかも、アイツさ。あたしと二股掛けてたんだよ!?」 


「うわ、前沢さん。最低だね」


「マジであたしも思うよ、あんなヤツは早めに別れて正解だったわ!」


 衣夜里はふむと言いながら、ウーロン茶を口に含む。雨月が買ったギョーザやラーメンはコンビニの店員に頼み、温めてもらっている。それをちびちび食べながら、雨月はチューハイを飲み進めた。


「雨月、失恋には新しい恋が何よりの薬とか言うしね。前沢の事はスッパリ忘れよう!」


「うん、だね!衣夜里も何なら、彼氏を射止めな!でさ、ゴールインして。ご両親を安心させてあげなよ!」


「……雨月、私はいいよ」


「かぁーっ、そんなにネガティブでどーするよ!衣夜里、あたしらさ。来年には四十路を過ぎるんだし。早めにしないと!」


「まあ、落ち着いて。雨月」


 苦笑いしながらも酔い始めた雨月を宥めた。が、雨月はさらにチューハイを呷る。衣夜里はその後もまくし立てながら、飲む雨月に付き合ったのだった。

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