第2話
衣夜里は急いでカフェに向かった。
徒歩で十分も掛からない距離ではあるが。確か、雨月との待ち合わせの時間は午前九時半だったはず。それでも、早めに行く事に越したことはない。衣夜里は速歩きでアスファルトの道を黙々と進んだ。
七〜八分は過ぎたか。やっと、待ち合わせ場所のカフェにたどり着く。店名は「カフェ・フルール」とあり、衣夜里はここだと思う。
カフェの入口のドアを開ける。カランカランと取り付けられたベルが鳴り、マスターや店員達が気がついたらしい。
「いらっしゃいませ!」
にっこりと笑いながら、マスターが自ら入店の言葉を掛ける。衣夜里は軽く会釈をして、さりげなく店内を見回す。向かって左側にある窓際の席に緩くウェーブした淡い茶色の髪に、薄い琥珀の瞳が印象的な凄く綺麗な女性が手を振っていた。髪は背中に掛かるくらいの長さでいかにも柔らかそうな感じだ。
顔立ちも日本人にしては彫りが深く、肌もきめ細かく白い。二重のぱっちりした瞳やすっと通りながらも高い鼻筋、薄いが薔薇色の唇。
まあ、エキゾチックさの中に清楚な雰囲気が漂う。衣夜里はその女性に近づき、声を掛ける。
「やっぱり、先に来てたね。雨月!」
「……ごめん、早く衣夜里に会いたくなってさ」
苦笑いしながら、女性もとい、雨月は言った。衣夜里は笑いながら肩を竦める。
「そう言ってくれるのは嬉しいけどさ、雨月。見かけによらず、せっかちなのは相変わらずだよね」
「まあまあ、そう言わずに。あの、フルールってカフェ・オレやスフレケーキが美味しいんだって。衣夜里、好きだったでしょ?」
「それは聞いた事があるなあ、スフレケーキが美味しいんだあ。なら、頼んでみようかな」
「うん、そうしなよ。あたしはブラックコーヒーとフレンチトーストを頼もうかな」
二人は頼むメニューを決める。衣夜里の代わりに、雨月がマスターに声を掛けてくれた。
「あの、すみません!」
「……はい、ご注文は決まりましたか?」
「ええ、こちらがカフェ・オレとスフレケーキで。あたしはブラックコーヒーとフレンチトーストをお願いします」
「分かりました、向かい側のお客様がカフェ・オレとスフレケーキを各一つ、こちらのお客様はブラックコーヒーとフレンチトーストを各一つですね。しばらく、お待ちください」
マスターは注文を復唱して、用紙にボールペンで書き込む。それが済むと厨房に入って行った。衣夜里と雨月はしばらく、ぽつぽつと話しながら待ったのだった。
二十分もしない内に、マスターと店員の一人が注文の品を持ってくる。銀のトレーに載せられていて、コーヒーやケーキなどの良い匂いが鼻腔に届く。
「お待たせしました、ブラックコーヒーとフレンチトーストにカフェ・オレとスフレケーキをお持ちしました」
「あ、カフェ・オレとスフレケーキは向かい側の人で。ブラックコーヒーとフレンチトーストはあたしです」
「分かりました、では。置きますね」
マスターが頷くと持っていたトレーから、ブラックコーヒーが入ったソーサーやカップ、スプーンなどを雨月の前に置いた。店員が衣夜里の前にカフェ・オレが入ったソーサーなどを置く。それが終わるとマスターと店員は頭を下げた。
『ごゆっくりどうぞ』
二人でそう言ったら、奥へと戻って行く。衣夜里は早速、スフレケーキを食べようとする。フォークを取り、一口大に切り分けた。口に運んだ。
ふわりとした食感に卵や砂糖などの甘さが相まって頬が落ちそうになる。
「本当にフルールのスフレケーキ、美味しい!雨月がこっちに決めたの、今になって分かったよ!」
「でしょ、前に一人で来た時にさ。スフレケーキを頼んでみたのよ、食べたら美味しいの何の。だから、あんたを今回誘ったんだわ」
「へえ、雨月は一人で来た事があったんだ。私もお休みの日にでもまた、来たいかも」
「……あのさ、衣夜里。食べ終わったら、あんたん家に行ってもいい?」
「……うーむ、いいよ。帰りにコンビニ寄ってさ、お酒とおつまみを買ってこうよ」
「分かった、あたしがお酒とおつまみのお金は払うよ。わざわざ、グチを聞いてもらうわけだしね」
雨月はそう言って、ブラックコーヒーを口に含む。衣夜里はカフェ・オレを同じようにした。二人はしばらく、静かにカフェタイムを過ごしたのだった。
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