第27話
「代わってほしいとのことです」
受話器を渡された。
「恐れ入ります。私Y社夕闇編集部の内田玲奈と申します」
「私、公立鴨野中学の理事長をしております、室田と申します。用件は先程太一君のお母さんから聞きましたが、もう一度あなたの口からお願いできますか」
中年は過ぎていると思える男性の声だ。
「仕事で、三件の行方不明事件について調べています。その一人が吉本太一君で、今は吉本君のご実家にお邪魔し、お母さまからいろいろ事情をうかがいました。そこで、一つの推察がございまして。太一君の交友関係を知りたく、サッカー部員や、中学二年生の時のクラスメイトなどをご紹介いただければと思います。サッカー部だったことは、太一君のお母さまからうかがっております。手がかりがなんとなくわかりそうでして。でもそれにはもう少し話を聞くことが必要なのです」
「わかりました。こちらも太一君の行方不明に関してはとても気にしているところです」
理事長だ。行方不明者が出たと分かれば、そして仮に事件性があると分かれば、学校の面子のことも考えるだろう。
「では、学校におうかがいしてもよろしいでしょうか」
「構いません。ただいまは授業中ですので、昼か放課後に来て頂けますと助かります」
「はい。こちらがお話したいのはサッカー部の方々と、中学二年生の時のクラスメイトです」
「中二、中三でクラス替えはありませんので、現在も太一君のクラスはそのまま三年生になっています」
「わかりました。ではお昼に一度、サッカー部の方々と、放課後にクラスの子たちに会わせて頂けませんか」
「わかりました。太一君の行方に尽力してくださるならば協力いたしましょう。サッカー部の顧問と太一君のクラスの担任に伝えておきます」
「よろしくお願いいたします」
電話は切れる。
「では、私はこれから中学校に行きます。中学までの行き方を教えていただけませんか」
すると由香は一枚の紙を取り出し、細かく地図を書いた。
「家からは十五分ほどです」
地図がわかりやすい。土地勘がなくても、大体の見当がつく。
「ありがとうございます」
「あの、怪奇現象でもいいので、原因がわかったら教えて下さい。主人ともども、心配しておりますので」
「はい。わかりましたら、お伝えいたします」
お辞儀をして、家を出る。
コートを着た。まだ時間はあったので、コンビニのイートインで軽くサンドイッチとおにぎりを食べる。
早めの昼食だ。それからゴミをまとめてコンビニ外にあるゴミ箱に捨て、鴨野中学へ行く。
校門の前で、四十代と思える男性が二人、待っていた。昼休みに入っているのだろう。校庭を駆け回っている子供たちの姿も男性の背後に見える。
玲奈は男性に会釈をすると、再び名乗って名刺を渡す。
「私が先ほど申しあげました室田、こちらがサッカー部顧問の石井です」
二人はお辞儀をする。室田は銀縁メガネをかけて細い。たいして石井はがっちり体型だ。
「あの、どんなお話ですか?」
石井が訊ねる。
「いえ。たいしたことでは。ただ、確認したいことがありまして」
「そうですか。サッカー部員を集めておりますので、部室までどうぞ。案内します」
そのまま中学校の中に入れてもらい、校舎の端のほうにある部室の並んでいるであろう建物の一つに案内される。
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