第28話

「ここが、サッカー部部室です。むさくるしいかもしれませんが」


そう言って石井は部室を開ける。


中は広いが、十五人ほどの顔がずらりと並んでいて、窮屈そうに座っていた。


「編集者のかたが、吉本について聞きたいことがあるそうだ。それでみんなに集まってもらった」


石井ははきはきとした声で言うと、玲奈を見た。


「どうぞ」


一歩部室に足を踏み入れた途端、むっとした空気が流れていた。むさくるしい、というより空気が淀んでいるし、汗臭い。ただ、みんな今は制服だ。


こちらに一斉に注目が集まる。


玲奈はもう何度目かわからない、自己紹介をする。そうして、言った。


「みんなが知っているとおり、吉本太一君は行方不明です。その行方を、仕事で追っています。そこでみんなに聞きたいのですが、動画サイトを吉本君に教えた人はいますか」


三つの動画の名前を挙げた。ICレコーダーをオンにする。


すると、一人の子が挙手をした。


「名前を言え」


石井が言う。


「俺です。坂田といいます。オカルト好きの妹から教えてもらいました。部室内でも一時流行りました」


「坂田君と吉本君は同じクラスですか」


「そうです。だからクラスの子も何人か知っています」


「そうですか。では放課後また同じ質問をさせて頂きますね。その動画はいつ頃吉本君に見せましたか」


「去年の、ゴールデンウィーク前です。四月の二十七日か八日頃です」


「それで、この部員の中にその動画を知っている人は?」


八人が手を挙げる。学年が変わってしまっているから見ていない一年生や二年生がいるのだろう。


「今手を挙げた八人全員見た、ということで宜しいでしょうか」


玲奈は十五人の生徒を見渡し言った。


「はい。俺は見ました」


方々から声が飛ぶ。声を出さずに頷いている人もいる。


「ありがとうございます。では、どのような媒体で見ましたか。三つあげるので答えて下さい。デスクトップのかた」


四人が手を挙げた。


「じゃあ、四人に聞きます。デスクトップパソコンは、自分所有で、自分の部屋にありますか」


四人とも頷く。


「ノートパソコンのかた」


二人が手を挙げた。


「井口です。自分の部屋で見ました」


井口と名乗った男の子が言うと、全員頷く。


「じゃあ、スマホのかた」


二人。


「俺はそんなに興味なくて、ひとつ見た程度です」


一人が言う。俺もひとつしか見ていない、ともう一人。


スマホ派は、見ていても一つか二つらしい。


「じゃあ、動画を知っている人は、みんなそんなにがっつり見ていないのですね。デスクトップ派も、ノート派も」


一人が挙手をし、言った。


「部長の飯塚です。みんなサッカーに必死で、そんなに見ていないと思います。ゴールデンウィークも二十九日に練習試合がありましたし。三日、四日、五日は休みでしたけど……みんな見てたか?」


飯塚は全員を見回す。全員首を振る。


「なら、話題になったのは部活が終わったあとの一時間くらいです」


「わかりました。じゃあ、最後に、動画にコメントした人は?」


誰も手を挙げなかった。


「あの、これで本当に吉本の行方不明の手掛かりがつかめるのですか」


井口が怪訝そうな顔で言う。無理もない。オカルトと行方不明なんてどう考えても無理がある。


「つかめるかもしれない、という段階です。私からの話は以上です。皆さん、ご協力ありがとうございました。あ、一つお願いがありますが、先ほどの三つの動画は絶対に見ないようにしてください」


これ以上犠牲者が増えてもややこしくなる。


「はい!」とサッカー部らしく元気な声が揃って聞こえた。


お辞儀をして、石井を見る。石井は頷き、部員に一声かけて部室の戸を閉めた。


「ありがとうございました」


石井はいえ、と言う。


「あとはクラスの担任に理事長から話が伝わっているはずですので」


「はい。本当にありがとうございました」


石井から、理事長室を案内される。室田がいた。


「あ、放課後は校庭の門を開けておきますので、自由にお入りください。そして、校舎に入ったところにある、窓口にお伝えください。吉本君のクラスの担任、千石を呼びますので」


「わかりました。貴重なお時間を頂きまして、ありがとうございます」


「こちらとしても早く見つかってほしい一心なので」


お辞儀をして、一度学校を離れる。心身が疲れた。玲奈は誰も見ていないからこれ幸いとばかりに、三時間ほど、お洒落なカフェに入ったり、洋服を見たりして時間を潰した。


本当は資料作成をしようと思ったが、心の癒しも必要だ。

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