第2話

編集長はテーブルの上で両手を組み顎を乗せ、眉間にしわを寄せた。


名前は川田俊樹。五十は超えているだろう。体は引き締まっているので、ジムにでも通っているのかもしれない。


そして五十を超えているということは、昭和生まれの出版業界百戦錬磨。


基本、何を見ても動じない。怖いものにも慣れている鋼メンタルは見習いたいところだ。


「動画を見た人が三人行方不明だ」


行方不明者が三人。さて。


「ただのオカルト動画と行方不明者にどのような関係が? あまり関係ないように思えますけど」


「もちろん俺もそう思う。行方不明の件については警察が動いている。動画との因果関係は何もないと信じたいところだ。ただ、年代が年代だけに、行方不明者の周囲は信じ切ってしまっている人もいるかもしれない。親も気が気でないだろう。だから特集を組むにしても、行方が分からない人が無事に帰って来なければセンシティブな問題になる。因果関係は本当にないのか、もしかしたら万が一にも裏があるのではないか。その辺を探ってもらいたい」


そんなに面倒なことが起きているなら特集なんか組まなきゃいいのに、と思うが、編集長はその動画サイトを気に入ってしまったのだろう。


「ですが、そういうのも警察の仕事では?」


「警察がオカルトを信じるか? オカルトがかかわったところで、科学的根拠がなければ何も捜査はしないよ。まあ、サブリミナル的なものとか催眠的な何かとか、動画投稿者が誘拐犯という可能性も一億分の一くらいはあり得るかもしれないけど」


一時期有名になったサブリミナルは効果がない、というのはもう知られている話だ。


「つまり、オカルト的な裏があるかもしれないと」


「警察は行方不明者と動画は別物と考えているようだ。俺も関係ないと思うが念のため。なにか変な勘も働くんだよ。気持ちよく特集を組みたい。こちらとしては動画と行方不明者の因果関係がゼロの事実が欲しいんだ。だから周囲に変なことがないか探って。もし警察案件が見つかったら即刻百十番の上、俺に報告してくれ」


そうしてまたメモを玲奈に渡す。

 

斎藤かなえ(十七)

野島平助(二十)

吉本太一(十四)


「それが行方不明の子たちの名だ。三人とも、まだ見つかっていない。動画を見た人の中に、他にも行方不明になっている人たちがいるかもしれないが、ひとまずこの三人の行方を君は追ってくれ」


玲奈は名前に目を通す。十四歳もいるのか。


十代から二十代という多感な時期に、怖い話は効きやすい。メンタルが抉られるものだ。という玲奈も二十四なのだが。


「この三人は三つの動画を見ているのですね?」


「ああ。大まかなことは調べた」


三人の資料を渡された。資料を手に入れるための危険な橋は編集長が渡ってくれたのだろう。玲奈にとって、安全確認されたうえでの取材だ。

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