第4話




 待てど暮らせど騎士は飲もうとしない。


 このコップ一杯飲んで、後は垂涎するくらいに妾の血を求めて欲しかったのだがその期待はもう薄い。そうでない方を望んでいるのも確か。

 嬉しさと悲しさの気持ちがあって複雑だ。


 起きてから扉を確認していたが、再び定位置に戻って腰を落ち着かせていた。

 胴体の鎧は脱いでいた。


 流石に休息を取るのにはきつかったのだろう。

 黒いインナーに四肢だけ鎧を付けた状態。

 逆に動きやすそうだ。

 

 剣は常に持っているので妾も容易に近づけない。

 ちょうど五人でいた時と同じ体勢。剣を抱き、片膝を立てている座り方だ。一番警戒している状態なのかもしれない。


 近寄ればすぐに妾の首と胴体は離れ離れになるだろう。

 時折鋭い目で射抜かれる。

 あるいは飢えた獣の目とも言える。その度に硬直してしまう。弱肉強食の世界を何度か実体験させてくれた。

 

 妾の魔法があっても、騎士が健康であったなら何度も死んでいたことだろう。



 勇者たちが見捨てて更に十六回月が昇った。その間にも月は形を変えていく。

 それを視界に入れるだけ入れる騎士を何度か見た。

 まるで今までの妾のように。



 それ以外はまずスケルトンたちを治してあげた。


 カラカラと骨を使って喜びの舞を踊る。

 正直スケルトンたちの容姿でいうのもおかしいがコイツらが妾の癒しである。


 いや。

 癒しなのはこの全体のある一体を除いたすべての魔物だ。

 彼らが一番なのは人間性が無くなって、言葉も発さない。もちろん言葉も分かる種もいるが、コイツらが何より素直で純情だしこのボディランゲージが良い。

 

 不快なのはこの蝶。

 見た目しか褒められない。

 特に騎士のことを診ていると邪魔で仕方ない。




 第二関門もそろそろ考えなくては……。未だにドラゴンの死体はまだここにあるのだから。

 蘇生もありだが、考えていることもあるのでこのままだ。


 もし血を飲んだのなら騎士でいいかとも思っているが、未だに不動だからどうしようもない。……とはいえここまで到達できた人間は騎士たちのパーティ以外いないのだから気長に待つとしよう。


 手持ち無沙汰になってしまったので、最近来たパーティの観戦をしていた。序盤のゴブリンたちに随分と手こずっているようだ。



 一人二人と倒れていく。

 これで終わりかな、とダンジョンに落ちていた書物を開く。ここが妾の世界なので井戸の向こうのことはすべて落とし物で学んでいる。

 

 落とし物によく地図が落ちているのをみかける。

 拾い上げ、中を見る。


 どう見てもダンジョンのもののようだ。

 ここから生きて脱出した者が書いたのだろう。まあまあ精巧。ドラゴンの場所とゴブリンの道の先の大きなスライムは中ボス地点と呼ばれているらしい。

 


 ドラゴンから先の道はない。



 ――作成者が誰か分かりやすい。



 ……もう騎士のために来ることはないのか。この地図でいくら儲けたか。

 もし会うことがあれば聞いてみたいところだ。



 妾が観戦していた彼らもゴブリンの圧勝だ。

 ゴブリンたちも様相は気味が悪いと言われるが、案外仲間意識が高く好きだ。


 暇そうにしているスライムや飛翔種を愛ででから騎士の元へと向かった。

 一応日課にしている。

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