第11話

(あ……)





 あれ以降、彼女からの接触はない。まるで、何もなかったかのように。本当に俺の妄想だったかのように。





 けど俺は、校内で彼女の姿を見かける度、目で追いかけるようになった。



 未だに、不安はある。でも、たった一枚の手紙が、『現実だった』と俺を繋ぎ止めてくれていた。








 追いかけていて、思ったことがある。噂は本当だったんだな、と。



 無表情。作り物のような瞳はいつも俯き加減。病的なほど真っ白な肌は、夏の日差しに負けることはなく。そして、陽の光に透けるようになびく髪は、驚くほど綺麗で美しかった。





 見ていて分かったことがある。こんな一面もあるんだな、と。



 ゴミ屑をその辺に捨てた生徒をこっぴどく注意していた。どうやら彼女は正義感が強いらしい。

 いつも伸びた背筋は、まるでそんな彼女の性格を表しているかのようだ。


 ……見ているだけで、気分がいい。









「凡太郎はどうやら酷い妄想男だったようだ」


「だからほんとだって言ってるだろ」





 そうは言うけれど、本当にあれから何もなかった。





「大丈夫だ朗。男は誰しもそんなもんだ」


「どんな励まし方だ」








 遠くの方で、秋の香りがほんのわずかしているような。そんな高校1年の、夏の終わり。もうすぐ俺は2年に、彼女は3年になる。







 あれから俺は、彼女が気になって仕方がない。

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