第12話 ほうび

『それでは貴様らに褒美を与える。下の段の連中は問題ないな。全員生き返れ。そして次に……誰からでもいいが、問題の少なそうなお前からだな』

「私? まぁ、確かに遊んでただけだし、勘違いして本気になったバカだけなんとかしてくれたら戻れるよ♪」


 酷い雰囲気になっている三方さんぽうさんや、修羅場になりかねない俺と穂乃花と長柄ながえさんを後回しにして、まずは提子ひさげちゃんの望みから叶えてあげるようだ。


『ふむ……お前を殺した相手は……黒峰徹というのか……』

「黒峰……徹……?」

「そうそう。なに、三方さんぽうちゃんも知ってるやつ? 気をつけてね。あれ、サイコパスだからさ。ちょっと何回か遊んだだけなのに、俺は妻を捨てて来たから結婚して欲しいとか言い出して~」

「ほぅ……」

「超~キモかったの~。友達は選んだ方が良いよ?」

「うん……それ、友達じゃなくて私の夫だったけど……気を付けるね」

「へっ……?」

「でね……提子ひさげちゃん」

「……はい……」

「私ね……浮気を問い詰めたら逆上されて暴行されて殺されたって話したことあるよね?」

「……はい……」

「……許さない……」

「えっ、ちょっ……」


 神様の言葉に、今まで呆然としていた三方さんぽうさんが再起動し、そのまま提子ひさげちゃんに襲い掛かった。


 えっと……確か『遊んだ男が思い詰めた感じで迫ってきたから『きもーい』って言ったら刺されたのよ酷くない?』とか言ってたっけ?


 提子ひさげちゃんを刺した思い詰めた男っていうのが、三方さんぽうさんの旦那さんだった?


 ちょっと待って。

 三方さんぽうさんもその旦那さんに殺されたんだよね?


 三方さんぽうさんに乱暴して首を絞めて殺した後に提子ひさげちゃんのところに行って交際を求めたら軽くバカにされて断られたから逆上して提子ひさげちゃんも殺したってこと?


 殺人鬼もびっくりな惨劇だけど、つじつまは合う……。


 いやいやいやいや。

 これ以上、泥沼にしないで!?


 どうしてこんなメンバーなんだよ!?

 おかしいだろ!?



『待て。今は提子ひさげの希望を叶えているのじゃ……が、なるほど。不倫した女とされた女じゃったのか……。それはさすがに呼んだワシの失態か……すまぬ』


 そして神様、謝っちゃった。

 まぁ、俺でも酷いと思うけども……。

 そして、まだ知らないと思うけど、俺達も酷いんだぞ?



「えっと……その……既婚者だとは知らなくて……なんて言っても、今さらだけど……」

「徹……」

『うむ。では、その男をぶち殺して……しまっては、提子ひさげは良くても、三方さんぽうはだめか……』


 これ、どうするんだろうか……。

 俺のような矮小な普通人には解決方法なんて思い浮かばないけど、神様ならなんとかなるんだろうか?


『うっ……うむ……。では、先に長柄ながえからにするとしよう。大人しそうなお前なら……』

「それが良いと思います。1人でさっさと帰って!」

「なんでよ。私は悠君と帰るの!」

「悠君は私のものです~。ずっと私のだったんです~。盗って行かないでよ!」

「勝手に束縛してただけでしょ!? しかも物理的になんて最低じゃない!?」

「あなたが余計なことをしなければ幸せだったのに……許せない許せない許せない許せない!!!!」

「ただの自己中じゃない。私はちゃんと悠君を尊重して幸せにしてあげるんだから、あなたこそ邪魔しないで!」

「悠君が好きなのは私なんだよ!?」

「そんな悠君は存在しません!」

「ふざけないで! あなたなんかいなかったら私が選ばれてたの!」

「なっ、スキルに頼るなんて、非を認めたようなものじゃない。そっちがその気ならこっちも!!!」

「ふん、官女風情がお雛様に勝てると思うなよ!?」

「なによ、ただのうのうとてっぺんに飾られてニコニコしてるだけのアホ女が!?」

「なにお~~~!!!!!?」



 あのぅ、神様。

 遠い目をしてこっちを眺めてくるのやめてくれませんかね。



『くっ……こっちもか……』


 全部あなたのせいですよ?


「よくこれで"ひなまつり"が成功しましたよね……。っていうか、なんで成功したんだ?」


「くっ……」

「私は悠君と一緒に帰りたかったから」

 先輩である長柄ながえさんのことばが心に温かくしみわたる。

 やっぱり俺、長柄ながえさんと一緒に帰るよ。

 あとの全員はどうでもいいから、ここで言い争ってればいいんじゃないかな?


「私は帰りたくない……。帰っても、徹さんは……」

 そうだよなぁ……。

 三方さんぽうさんは泣き崩れてしまった。

 

「こんなところにいたらお内裏様しかいないでしょ? そんなの嫌よ」

 提子ひさげちゃん……。

 あんなに接したのにさすがに軽すぎてお兄さん、ちょっと悲しいよ……?

 そして、泣いている三方さんぽうさんの横で、よくそんなことを言えるよな。


「私は悠君がいればいいの。帰るなら帰るし、残るなら残るわ……」

 勘弁してください。

 あなたはよくても俺は嫌だ。

 そもそもこいつ寝てる隙に縄で縛って放置とかするしな……。


 なんでこいつへの嫌悪感が消えてたんだろう。

 お内裏様とお雛様だったからか?

 仲良く並んで座るためにってことか?








「じゃあこうしましょう」

『ん?』

 全員の話を聞いて俺はひらめいた。

 完璧な解決策を。


 全員の視線が俺に集まる。

 あっ、三方さんぽうさんはまだ俯いて泣いてた……。


 けど、穂乃花と長柄ながえさんは期待感の籠った目を、提子ひさげちゃんはなぜか楽しそうな目を、神様は希望に満ちた目をしている。


 うんうん。

 期待してくれていいぜ?


 必ず問題が減る、素晴らしい方法だからな。






『何か思いついたのか?』

「えぇ。聞いてください。まずは俺と長柄ながえさんを戻してください。なに、俺達だけを戻してくれれば、他の誰かの記憶を弄ったり、行動を変えたりする必要もありません」

「悠君♡」

「悠君?」

『……』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る