第7話 力
「ほんと、みんな元の世界に引きずられ過ぎだよね~」
あっけらかんと笑顔で語る
若いながらも成熟しつつある肢体に、とろんとした表情がたまらない……。
この前あんなことがあったのに逞しいなこの子。
「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」
「ほら、頑張って、おじさん」
「はぁ……せめてお兄さんだろ……はぁ……はぁ……」
「うん、もっと頑張ってくれたらお兄ちゃんって呼んであげる」
「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」
何をしているのかは想像にお任せしますが、もしかしたらリアル腕相撲とかかもしれないですね……(すっとぼけ)
しかし、なぜこの子はこんなに距離感が近いんだろうか。
長柄さんは先輩だったわけで、俺は先輩のアドバイスで穂乃花と別れ、その党の先輩に恋心を抱いていたし、先輩もそうだったんだと思う。
だから、この世界で隙あれば親しくなろうとするのは理解できる。俺だって嬉しい。
でもこの子は?
どう考えても知り合いじゃない。
「どうしたの? お兄ちゃん♡」
どうでもいいけど、半裸の美少女からの『お兄ちゃん♡』って攻撃力高すぎるよね?
あっ、半裸とか言ってしまった。ないない。違うからね。腕相撲だから。ちょっと腕まくりに気合を入れすぎただけだと思うよ。
「俺達、前世で知り合いとかじゃないよな?」
「新手の……いや、使い古されたセリフで、ナンパ?」
「違うわい!」
なんで至近距離に潜り込んできたやつをわざわざナンパしないといけないんだよ。
「あはははは。この世界に来る前ってことだよね? 違うと思うよ~」
「だったらなんで?」
「なにが?」
「なんでこんなに距離が近いというか」
「致してるのか? って?」
「しーーーーーーーーーー」
俺が隠してた意味がなくなるだろ!?
しかも言い方が若くないだろ?
「だってこんな世界でさぁ」
「あぁ」
「遊ばないとかもったいなくない?」
「ん?」
「だって、ひな祭りさえ無事に終われば帰れるわけだよね? しかも死ぬ前に、望む形で」
「そう言っていたな」
「だったら遊ばないと損じゃない?」
「全てなかったことになるから?」
「なかったことというか、前世知らない相手なら、きっと戻っても関わることはないだろうしぃ」
「はぁ……」
とりあえずただの遊び人だったらしい。
そしてひな祭りが失敗するとは思っていないらしい。
俺が思うに、穂乃花は失敗させるつもりな気がするんだよな……。
そして俺と未来永劫……とか考えていそうで怖すぎる。
勘弁してくれ……。
「そもそもお前なんで死んだんだ?」
「遊んだ男が思い詰めた感じで迫ってきたから『きもーい』って言ったら刺されたのよ酷くない?」
どう考えてもお前が酷いわ!
「また別の女……許せない……」
「なっ……何の話だ?」
「悠君……もうあなたを殺して私も死ぬ……」
「それは前の世界でやっただろ? 結果としてここに来たんだから、まずはひなまつりをなんとかしようぜ」
「……」
どう考えても信じていないのに、なんでそんなに笑顔なんだよ。
やっぱり絶対に失敗させる気だろ!?
「悠君……また、あなたに私のものだって刻みつけないといけないのね?」
「ひぇ……」
穂乃花のセリフに俺の心のどこかが縮み込む……。
同時にアレも……。
「もう、お雛様ったら、嫉妬で邪魔しないでよ。遊びでしょ、遊び~♪」
「暴露……束縛……」
「ガード!」
「なっ……」
なんと、またあの不思議な力で
やっぱり持ち物で名前を付けたのはわかりにくかったか……。
そんな俺のとぼけた思考をよそに、穂乃花と
「悠君を遊びだと?」
「悪い? 楽しんだもの勝ちでしょ~? ……ってぅわぁ~」
「お前…………」
しかしそこで俺達はまたあの強制力に引っ張られてひな壇に並ぶ……。
『ふん……また諍いか?』
聞かれても答えることはできない。
ただ正面を向いて座っているだけ。
『だんまりか……』
違うだろ!?
強制力のせいで答えられないんだよ!?
『本番の時も、そのように大人しくしているのだ。それくらいのことはできるだろう? もし破ったらここに永遠に閉じ込められることになる……それが嫌なら決して抗うな……わかったな!』
これだけ言って、また神様はどこかに……
行かなかった。
彼は怒りを讃えた瞳でおもむろに手を出し……
「きゃっ……」
穂乃花を……お雛様を掴んだ。
『ふむ……おかしなところはない……』
「うっ……」
神様はその大きな手で穂乃花を掴みあげると、衣服を摘まんだり、穂乃花を振り回したりする……。
何かを調べているのか?
なぜ?
もしかして前回強制力がかかっているにもかかわらず落下したせいか?
「私はなにも……」
そもそも
あれを使って神様に抗ったのではないのか?
わからないけど、穂乃花はきっと何かを掴んでいる。または知ってる。
それはきっと俺を束縛するために違いない。
それだけは断言できる。
神様はそこを暴いてくれないかな?
そうしないとこの娘はひなまつりを失敗させると思うんだ。
『ふむ……やはり偶然か? だとしたら、本番では決してそのようなことはせぬことだ。心を乱すな。落ち着いてただ座っていろ。いいな!』
しかし俺の期待とは裏腹に、神様は去って行った。
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