第6話 異常事態?

□神様


 どういうことなのじゃ……。


 ワシは迫りくる孫娘の祝いのため、彼女の誕生日と同日に開催される人間世界のひな祭りという風習を知って、その実現のために魂を集めた。


 やつらはこの世界に現れる寸前でワシの力を受けており、ワシに逆らうことはできないようにした。


 これで孫娘を祝ってやれる。


 長く不遇の時を過ごさせてしまった可愛い娘が生んだ可愛い孫じゃ。

 ようやく会えた。


 だから妻も喜んでいる。


 ワシは失敗するわけにはいかんのじゃ。


 そのための準備はした。あとは、もし失敗するとしたら想定外の要因によるものだけ。それすら防ぐためにやつらには餌をぶら下げた。


 集めた魂は皆、悲しい感情を胸に死んだ者ばかり。

 その想いに封をし、祝いの席で座っているだけという簡単な仕事を与えた。


 その対価が、悲しみを解消し、復活させるといえば食いつくじゃろう。思った通りじゃった。


 にもかかわらず、なぜあの人形は落ちて行ったのじゃ?


 どうやってワシの力に抗った?


 わからぬ……。


 何か別の力が働いているようにも見えなかった。感じなかった。


 だとするとワシの知らぬことがあるというのか?

 ワシはまごうことなき神である。


 しかし、一部の人間たちが信じているほど万能な存在でもないこともまた事実。


 孫娘の祝いまであと2日……。


 すでにかなりの力を使っており、これ以上、彷徨える魂を招くのは難しい。


 なんとしてでも原因を突き止め、邪魔を防ぎ、祝いを成功させなければならぬ。



□主人公


 「ん……」


 暖かい中に入る……(以下、放送自粛)


 大変結構なお時間で遊ばせたことですよ。

 うん……ひな人形っぽい言葉なんか、俺には無理だった。


「(悠君……)」

「えっ?」

 

 隣で眠る長柄ながえさんが今、俺の名前を呼ばなかったか?

 

 どうして俺の名を?

 そもそも名乗ったっけ?

 それとも穂乃花のやつが言ってたっけ?

 

 わからないけど、何かで聞いたのかな?


 そう言えば穂乃花に『女の匂いがする』とか言って首を切られたんだったな……。

 なぜだ?


 なぜ、それなのに穂乃花に対する怒りとか恨みが沸いていない?

 まるでただの事実の一つとして淡々と受け取っている自分が気持ち悪い。


 やめよう。

 今は寝よう。

 あと何日かわからないけど、祝い……ひなまつりに備えないとな。






「な……なにやってんだよ、穂乃花!!!」

 焦点の合わない眼で微笑む穂乃花にぞっとして問い詰める俺。


「逃げて……悠……君……」

「せんぱい!?!!?」

 穂乃花の足元には仲良くしてもらっている会社の先輩……が、おびただしい量の血を流しながらうずくまっている。

 

「おい!?」

「悠君……違うよね……悠君は私のものよね……悠君は私じゃなきゃダメだよね……悠君は騙されたんだよね……許せない……許せない……許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない」

「やめろ!?」

 ぼんやりと話し始めた穂乃花は先輩を見て急に激高し、手に持っていたナイフを既に致命傷を負った先輩に向けて振り下ろす。


 俺はそれを止めるべく体を滑らせ……


「うぐぅ……」

「悠君♡


 これで刺されて死んだよな……。

 なんであんな笑顔なんだよ……。







「女の匂い……この匂いは長柄……」

「げっ……」


 目覚めると長柄さんは既にいなかったが、ほのかに残る暖かさを微睡みながら感じていたら穂乃花が帰って来たらしい。

 

 最悪だ……また首を切られるかもしれないと、体を固くしたが、衝撃はやってこなかった。


 やってきたのは妖艶な女性の声……。


「えぇ、そうよ? 文句あるの?」

「お前……」

「やめろ! また神様に叱られるぞ!?」

「「……」」


 咄嗟に出た声だが、2人とも止まる。

 やはり神様は怖いのね?


「絶対に許さない……悠君は私のものよ……」

「すでに振られていたでしょう? なのに執着して……ただのメンヘラじゃない……あなたが余計なことをしなければ悠君は私のものだったのよ……」

「お前……あの時の!?」


 まじか……。

 長柄さんは先輩だったのか?




 それは……大丈夫か?

 神様さぁ……呼ぶ魂くらいは確認しようよ。


 無関係で悲しい過去があった人間が混ざってるとかならまだしも、殺し合ったやつを並べてひな祭りとかどんな地獄なんだよ……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る