第2話 ラストステージは煌々と
昭和レトロな雰囲気の漂うビアガーデンの一角に設けられたステージで、私は歌っていた。
雰囲気は悪くない。
いくつもの提灯が暗闇を照らし、アンニュイな雰囲気を醸し出している。
そんな中で、大勢の人間が話し、触れ合い、騒ぎ、笑っている。
そんな賑やかな雰囲気の漂う中で、私は世界に取り残されたような感覚に囚われていた。
賑やかなのはテーブルが集合している一角のみで、場を盛り上げるために歌っている私の前には人っ子一人いない。
人気アイドルのライブであれば、ライブ開始が近づくにつれてステージの前にお客さんが集まってきて、ライブが始まれば会場は一気に熱気に包まれる。
それが正しい姿のはずなのに、私は歓迎されるどころか、むしろ腫れ物扱いのような、そんな視線を感じてステージ上から逃げたくなっている。
(こんなところで何やってるんだろ……)
私は十八歳の頃から地下アイドルを数年続け、努力が身を結び、大手事務所に所属するアイドルグループの一員となることができた。
それからも地道に活動を続け、少しずつではあるものの認知度も増し、人気も出てきて音楽番組への出演も決まり、さあこれからだというタイミングで事件は起きる。
私が所属いていたアイドルグループのメンバーの一人が、薬をやっていたのだ。
勿論私は薬なんてやっていない。天に誓ってそう言える。
至極真っ当で、真っ白で、真っさらなアイドルを目指していた私が、薬になんて手を出すはずがない。
それでも、同じグループのメンバーが薬をやっていたとなれば、世間からそのグループのメンバー全員が薬をやっていたのではないかという疑惑の目を向けられるのは当然のこと。
きっと私がファンの立場だったとしても、そのグループのことは信じられなくなってしまうだろう。
当然の如くグループはすぐに解散し、私はアイドルを引退せざるを得なかった。
--それでも、なんとかしがみつきたいと思った。
私の夢を、誰かのせいで終わりにされるなんて悔しかったから。腹立たしかったから。ゆるせなかったから。
だから、足掻いた。私は足掻いた。足掻いて足掻いて足掻きまくった。
醜い足掻きだったとしても、そんな足掻きに意味は無いと言われたとしても、絶対に売れて、人気アイドルになってやるんだ、人気アイドルになって、みんなに夢を与えるんだ--。
そんな気持ちで活動を続けたものの、私が売れることはなく、その末路はビアガーデンの専属アイドルだった。
同じくビアガーデンの専属アイドルをしているメンバーに対して『末路』なんて言い方は失礼だと思うが、ビアガーデンの専属アイドルは私が求めていたアイドルではない。
私が求めていたのは、観客動員数三万人超えの巨大な箱で、キラキラと輝くサイリウムに照らされ、宇宙にいるかのような感覚に陥りながら、ファンのみんなに笑顔を届けるアイドルだ。
……諦めたくなかった。絶対に諦めたくなかった。
しかし、現実は残酷だ。
惨めな足掻きを続けた私は、もう二十五歳になってしまった。
人気アイドルは大抵十代の頃から売れ始め、遅くとも二十代前半では芽を出し売れていくものだ。
だから、二十代も後半に差し掛かった私なんかがアイドルを続けたところで、これ以上売れることはない。
今更どれだけ頑張ったところで、私自身の力ではもうどうにかなるものでもないんだ。
……もうやめよう。醜く、みっともなくアイドルにしがみつくのは。
私にはもう、アイドルを続ける資格がなくなってしまったのだから。
「皆さん楽しんでますかー!」
もうアイドルはやめようと決意した。
誰に向かって話しているのかもわからない。
それでも、だからこそ、最後まで私はアイドルでいなければならない。
自分がアイドルを好きだったという気持ちに、失礼が、嘘が無いように。
次が最後の曲。
燃えきらない、沸りきらないこの気持ちに炎を灯せ。
可燃物? 酸素? 点火源?
そんなものがなくても、煌々と炎を燃やし続けるのがアイドルの生き様なのだから。
「それじゃあそろそろ最後の曲です!」
そう言って、私が最後の曲名を口にしようとしたのそとき--。
一人の男性がふらふらっとステージの前にやってきた。
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