第12話 新しい生活のリズム

 千尋はこれまでの生活を大きく変えることにした。

 仕事をセーブし、無理をせず、体を大切にすることを最優先する。そんな日々は、最初は落ち着かないものだった。


 「本当にこれでいいの?」


 今までは忙しさに追われているのが当たり前だった。朝早く出社し、夜遅くまで残業。休日も仕事のことを考え、体調が悪くても気力で乗り切る——そんな日々が、千尋にとって“普通”だった。

 けれど、今は違う。朝はゆっくりと目を覚まし、きちんと朝食をとる。仕事は時間内で終わらせるようにし、夜は湯船に浸かりながら好きな音楽を聴く。


 「最初は違和感だらけだったけど……少しずつ、慣れてきたかな」


 無理をしなくなったことで、体調は確かに良くなっていた。

 肌の調子も良くなり、頭痛や肩こりも減ってきた。朝の目覚めもすっきりしていて、以前よりも深く眠れているのがわかる。


 ——でも。




 ふとした瞬間に、千尋は玲のことを考えてしまう。


 カフェで一人コーヒーを飲んでいるとき、夜にベッドへ入るとき、ふとした瞬間に心の中で問いかけてしまう。


 「玲なら、どう思うだろう?」


 玲がいた頃は、彼の存在が心の支えだった。

 無理をしても「もう頑張らなくていいよ」と言ってくれる人がいる安心感。

 病気という形で現れた彼だったけれど、彼の存在そのものが、千尋にとっては心の拠り所になっていたのかもしれない。


 ——私は、今、本当に自分の力で生きているのかな?


 そんな不安が、時々胸をよぎる。


 それでも、千尋は前に進もうとしていた。

 玲が消えたことを悲しむのではなく、彼が教えてくれたことを生かしていくために。

 ゆっくりと、新しい生活のリズムに馴染みながら——。

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