第2話 ある古書店
この北国の城下町へは、昨日の昼過ぎに着いた。
城下町といっても城は石垣の一部しか残っておらず、軒の低い薄暗い色合いの武家屋敷が入り組んだ道の両側に並んでいるだけの町だ。
そんな町をあてもなく歩いていると、古ぼけた古書店があるのに気づいた。
旅の思い出に何か1冊買っていこう、そう思って店の扉を開いた。
店内は意外に広く、天井まで届く木製の棚には整然と本が並べられていた。
新しい本もちらほら混じっていたが、大部分は戦前に出された古い本だった。しかし、どの本もきれいに埃が払われており、手垢もついていなかった。
奇妙なのは本の並べ方で、まったくジャンル分けがなされていない。宗教哲学の本の隣にトマトの栽培法の本があったり、簿記の入門書と古代文字の本の間に『
そんな中から装丁が面白い本を抜き出して、裏表紙を開いてみた。思った通り、そこに値段が鉛筆で書き込まれていたが、「5」とあるばかりで単位がわからない。
5円というわけはないから5千円だろうか、だったら高いな、と思いながら、下の段の『
どうにもよくわからないので、店主に尋ねてみることにした。
店主は店ずっと奥の帳場に座っていた。寒がりなのか頭から黒い毛布をかぶっているので、まるで煤けた達磨像のようだった。
「ああ、それね」古本の値段について尋ねると、
「じゃあ、この本を買うと、とたんに寿命が15年も減るんだ。うっかり買えないなあ」
そう言うと店主は首を横に振った。
「寿命が減るのは読み終わってからだよ。先に取ってしまうと安心して読めないだろう?」
冗談かと思って混ぜ返したのだが、そうではないらしいので、さらに尋ねてみた。
「でも、積ん読したままで死んじゃったら、どうするんですか?」
店主は黒い毛布の下から言った。
「読まなかった本は回収させてもらう。うちの本はすぐわかるからね。だから、それはそれでいいんだが、読みかけで死なれてしまうと、少々やっかいなんだ」
「そうなんですか? それも回収すればいいのでは?」
「そうはいかないよ」店主は心外だという顔で言った。「そんなことは、食べかけの料理を別の人に出すのと同じだ。ほかは知らないが、うちはそんなことはしない。だが、読んだ分の料金は徴収する」
「え? でも、その人は死んでいるんですよ。どうやって?」
「それは、お客さんは知らないでいいことだよ。聞いたところで楽しい話ではないからね」
「なるほど」あまり詮索しない方がよさそうだったので、それ以上聞くのはやめておいた。「じゃあ、僕はあの棚の『黒甜瑣語』を買うことにします」
そう言うと、店主はこちらの顔をじっと見て、首を横に振った。
「悪いけど、お客さんには売れないね。余命が明日までだから」
「え?」
冗談にしても
あれから一昼夜と少し過ぎた。店主の言う通りなら間もなく寿命が尽きるはずだが、間もなく日付が変わる時刻になっても体調に何の変化もない。鍵をかけたホテルの部屋の中だから、事故や事件に遭う恐れもない。
12時を過ぎたらこの文書を■■■■
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