第16話 幕間──ひとりごと
「ただいま。って、いるわけないのにね」
玄関のドアを開けてそれなりに大きな声で呼び掛けるけど、返ってくる声はない。
明かりがついてなくて、物音一つない静かな家────これが私、氷川藍の家の日常。
この家は、中学の知り合いがいない離れた高校に行きたかった私が、親に無理を言って借りてもらったものだ。
実質、私はこの家で一人暮らしをしている。
お父さんは仕事で海外。お母さんも仕事が忙しいみたいで、前に住んでた職場から近い家をホテルのように使っているらしい。
たまにお母さんがこっちの家に帰ってくるけれど、それも年に一、二回くらい。
前田くんの家では心配をかけたくなかったから、嘘ついちゃったけど。
夜も遅く真っ暗なので電気を付けると、照らし出されたのは、私一人には広すぎるリビング。
「静かだなぁ」
いつもは気にならない静寂も、今日はなんだか寂しく感じてしまう。
それもこれも、さっきまで楽しくて賑やかな空間にいたからかな。
思わず、普段つけることのないテレビをつけて静けさを誤魔化す。
最後に家族そろってテレビを観たのも、小学校低学年のときだったっけ。今では大きな置物と化している。
バラエティー番組をかけてリビングに音を響かせると、キッチンへと向かう。
「少し買い物に行っただけだったのに、帰りがこんな時間になるなんてね」
でも、久しぶりに良い休みになった。
そんなことを思いながら、大きな冷蔵庫を開けて昼に買ったものをしまいこんでいく。
お腹いっぱいだし、今日は何も作らなくていいや。
「前田くんのお母さんが作ってくれたご飯、美味しかったな」
誰かが作ってくれたご飯なんて久しぶりだった。
明日からはまた自分でご飯を作らなきゃいけないと思うと、少しだけ憂鬱になっちゃう。
「いいな、楽しそうなお家で」
課題はとっくに終わってきるし、やることなんて無いし、もっと遊んでいたかった。
無意識のうちにそんなことを考えていたってハッとすると、頭をぶんぶん振って無理やり排除する。
前田くんとの帰り道────羨ましいって言葉が口に出かけたけど、聞かれてなかったよね……。
なんか、私らしくないことばかりだ。
「今日はもう寝よ。それでリセットしないと……」
お風呂も明日でいいや。今日くらいは楽をしたってバチは当たらないはずだし。
歯磨きだけはしてパジャマに着替えると、結局一切観なかったテレビを消して自分の部屋に行く。
殺風景で、女の子らしくない私の部屋。
机の上にメイク道具とかピアス、アクセサリーが置いてあるけど、あんなのだって私の趣味じゃない。
やっぱり普段の格好のほうが落ち着くし……。
そんなことから目を逸らすように電気を消して、ベッドに入る。
楽しかったことを思い出しながら寝ようと、目を瞑って思い浮かべた。
前田くんのお母さんやお父さん、あかねちゃんも凄く歓迎してくれて嬉しかったな。
でも、完全にあのテンション、これから恋人になるって思われてるよね。
前田くんは本気にしてないと思うけど。
「遊介くん、か……」
何度か言葉にした呼び慣れない名前をもう一度呟く。
けどそれは、誰にも届くことなく静寂の中に消えていった。
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