第4話 主人公はNOW-LOAD-OK~なろう系~!

 密林の中で、身を隠しながら周囲を伺う。組合証シェバアに搭載されたデータから物体化させた弓型の武器を構え、息を潜める。

 組合から所属の証としてもらった水晶タブレットには、物質をデータ化させてタブレット内の仮想空間に保存することができる機能が搭載されていた。なお、データ化した物質は劣化することが無く、重量も無くなるので持ち運びが便利であることこの上ない。

 また、所属する組合シャンデエからは、それぞれの職種に必須な道具が貸し出される。狩人組合ならば個人情報の登録時に、剣、盾、斧、槍、弓などの武器データが組合証にインストールされ、戦闘経験の蓄積によって自分の体に最適化された専用武器に仕上がっていくとか。


『“……ふっ”』


 番えた矢が加速され、一直線に飛んでいく。軽く引き絞った矢は眼前の敵性生物、巨躯の怪物の頭を亜光速で吹き飛ばす。


『“まだ使い慣れないけど、この弓も悪くない。へぇ、リム部分に特殊な粒子加速器が付いてるんだ。このテクノロジーも改造すれば色々面白いことできそう……”』


 BAVEL社製荷電粒子砲とほぼ同じだな。まぁ、あれは初期ロットの量産品だから仕方ないけど、性能はこっちの方が断然上だ。

 ……ん? 森の奥にまだ気配がある。数は16かそこら。全滅させれば依頼達成にはなる、かな。それじゃあ鬼豚猿キシャダギン狩りの続き、やっていこう。







————『キシャダギン』。


 鬼豚猿。惑星ニビルの環境へ適応するため進化した、地球の類人猿にも似た二足歩行の生物。雑食性。全長は3~5mほどの大きさで、四対の眼と小さく退化した中腕を含めた四本の腕を持ち、豚に似た顔に肥満体型といった外見である。ファンタジーゲームのオークを思い浮かべればわかりやすい。気性は荒く知能は人間の子供並みであり、アヌンナキ達にとっては丁度いい狩りの獲物になるとか。火や鉄器を操り集団で戦闘を行うが、人間には脅威となる戦闘能力も、この星の支配者であるアヌンナキ達には遠く及ばない。極端に生殖能力が高いため、街では家畜としても育てられている。豚と同じで捨てるところが無く、脳髄や骨もアヌンナキ達は余すことなく料理に使う他、内蔵にできる結晶石や性器の成分は薬品としても利用できるという。家畜化されたキシャダギンは、飼育スペースや飼料の低コスト化のためアヌンナキの道具で体躯を縮小されているが、精肉加工される時は本来の身体のサイズに戻される。


(※柏崎真理那のフィールドワークのレポートより、一部抜粋)







 半径20m以内にいる全ての鬼豚猿キシャダギンと間合いを図りつつ、勢いを殺すことなく脚を振り抜く。


『“ほっ”』

「————ッッッッッッ!!!?~~~~~■■■■■■■■■ッッッ!!!?」


 生殖器を潰された雄の鬼豚猿キシャダギンは、顔に脂汗を浮かべて股間を押さえながら蹲った。よし、頭が丁度いい所に。サッカーしようぜ。お前ボールな。ほいっと。


「ゴビュ……ッ」


 ゴキン、という骨の砕ける音と共に宙を舞う頭蓋。回し蹴りで捥ぎ取った豚猿の頭でリフティングをする。しばらくやってなかったけど、元女子サッカー部のテクニックは健在だった。

 ……というか新鮮とはいえ屍骸だし、あまり長時間触れたくないからこれで勘弁。頭をぽんぽん蹴りつつ、その組成を幾らか変えて……。着弾予測地点の次元を球体状に断絶させて、爆発の被害は最小限に……。へいパース。


「「「ブギィィィッッッ⁉」」」


 爆発四散する豚顔の猿の皆さん。


『“……名付けて、純粋水爆シュート。相手は死ぬ”』

(……、容赦ねーのな)


 説明しよう。純粋水爆シュートとは、ボール状の物質を蹴る際に核融合を無駄なく発生させて、敵に接触した瞬間に核爆発させる投擲攻撃。幼少期から習っている萬代流古式武術の応用技の一つである。技名は今考えた。

 いやぁ、小さい頃から武術とか戦術の基本とか習っておいて、ほんっと良かった。こういう時に役に立つ。何事も経験だよね。……うん。うーん。


『“……。あ、ああああああ……、き、記憶の奥底に沈めた、お母さんとの特訓のトラウマが、再発しそうになったぁぁぁ……”』

(お、おう……。あれは、まぁ仕方ないよな……)

『“母は強し、って言葉あるけど、絶対ぜぇぇぇったいああいう意味じゃないと思うんだよね私……?”』

(そ、それ以外は良いお母様だろう、なっ?)


 ……うん。良いお母さん。いつも優しいし、悪いことしたらちゃんと叱ってくれるし、アラフィフなのに美人だし。


(それと……外見に似合わず、かなりの茶目っ気ある所とかな。ホントお前ら親子だよ)


 ま、まあ……兎も角。これで鬼豚猿キシャダギン討伐は達成かな。

 組合証シェバアである水晶タブレットを操作し、格納のアプリをタップ。それから、タブレット端末を鬼豚猿キシャダギンの死骸の山へ向かって突き出した。

 水晶画面が輝き、数々の死体が光に包まれて消えていく。光の粒子になった鬼豚猿たちは、全て組合証の中に量子化して取り込まれた。よし、これでOK。物質データとして直接組合シャンデエへ送信しても良いし、送信料をかけないために歩きで戻って狩人組合の窓口で引き渡しでも良い。

 キエンギ族の集落まで、大体600㎞か……。この姿でなら、走れば日暮れ前に到着できるな。よし、費用節約がてらダッシュしよう。







 惑星ニビルの、連なる山々の麓の大森林。現地の民、アヌンナキであっても立ち入りを躊躇う、視界を草木の枝葉が遮る禍々しい樹海。

 そこに、白と紫で彩られた奇抜な服装のがいた。地球の生物では呼吸すらできず、重力や降り注ぐ宇宙線も地球とは違うこの場所で、その人影は平然とした様子で、根の隆起が激しい苔むした地面を歩いている。

 足の踵にまで届く程長い銀髪に、虹色のインナーメッシュを入れた仮面の女だった。彼女が纏っているのは、彼女の豊満な身体を惜しげもなく晒す、道化師を思わせる奇天烈な帽子とドレス。そして、濃密な死の瘴気。


「~♬」


 アーマーリングが付いた指でタピオカミルクティーのストローをぐりぐりと弄り、仮面のスリットから上品に飲んでいた人間は、はたと顔を上げた。


「……おやおや。どうやらこの星にも、可愛らしい女救世主が来たようだね」


 艶のある、だがどこか幼さと狂気を孕んだ声だった。露出の多いピエロのような格好で、仮面を付けた彼女は、体を反り返らせて空を見る。赤子の木乃伊ミイラと山羊の双角が頭頂部に縫い付けられ、先が二股に分かれた道化の帽子が揺れた。


「一つ、ご挨拶に伺おうか。だが、私が直接出向いては、と言われてしまいそうだ。あの可愛い子のご機嫌を損ねるのはよろしくない。ああ、本当によろしくない……」


 右肩の獣の頭骨の顎から垂れ下がり、腕に絡みついた桃色の腸を振り回す。スリットがダイナミックに入った、悪趣味な柄のドレスの裾がふわりと広がる。

 それは歪な光景だった。吐き気を催すような、見るからに疎ましく悍ましい姿をした怪しい女が、どんな絢爛豪華な宮殿の舞踏会でもお目にかかれないダンスを独りで踊っている。


「そうだ。お詫びと言ってはなんだけど、彼女の探し物を手伝ってあげよう」


 道化の女怪人の姿が搔き消えた。


「ソテイラ。太陽のような君。陰ること無き天の星————笑いが出る程に忌々しき、美しい稀人。ふふっ、はっははは♪」


 彼女の立っていた場所には、白と紫の大蛇が、幾匹も、数十匹も地を這いずり回っている。


「終わりの物語の始まりだね。太陽の女神と同じ名を持つ君、柏崎真理那……。散々人に裏切られ続けた挙句の果て、剰え世界なんてものを救ってしまった救世主。あなたが虚無に蝕まれるのは……すぐ、そこだよ」


 彼女の嘲笑と共に、森の闇の中にどす黒い孔……天醒の扉が開かれた。







『“!”』


 駆けていた脚を止めて立ち止まる。今、次元が歪んだ気配がした。


『“……ごめん。寄り道する。帰るのは遅くなりそうだ”』

(そう言うと思ったよ。相変わらず面倒事に頭突っ込む奴だ)

『“…ん。そうだね”』


 止める気はないけど、ね。星海も本気で叱って止めて来ることも無くなったし。それが、自分のことを理解してくれたみたいでちょっと嬉しかったり、申し訳なかったり……。


(…………チッ)


 星海の舌打ちが聞こえなかったフリをして、街道を走る。やがてキエンギ族の集落の内、北方にある森の街に辿り着いた。

 倒木の影から頭をひょっこり出して、周囲の様子を伺いながら移動していると………お。


『“……見つけた。多分アレだよね”』

(ほー。アヌンナキ達が交戦中か)


 街の中心部に彼らはいた。首から私と同じ組合証シェバアが下げられ、それに加えて薬や医術を示す楔形文字のペンダントを付けている、角竜型や首長竜型のアヌンナキ達だった。彼らは子供達を守るために円陣を組み、に向かって槍や盾、弓を構えて威嚇していた。

 さて、どんなこと喋っているのかな?耳を澄まして聞いてみよう。


『なんだコイツは…? 姿は我々と似ているが、どうにも違う……!』

『チッ、毒を吐いてきやがる! 命にかかわるモノじゃねぇが面倒くせぇ!』


 射られた矢や槍の穂先が襲撃者の体に当たり、火花が散る。だが、それに怯むことなく襲撃者はアヌンナキ達に向かって牙を剝いていた。

 襲撃者には、アヌンナキ達には無いのモールドが体に浮かび上がっている。ああ、やっぱりか。


「シャァアアア……フゥゥ! ギャギャギャッッ! ギャシャァァッッ‼」


 エリマキトカゲを思わせるヒダを震わせて跳ねまわる襲撃者。嘲るような鳴き声が癇に障る。


『うるっせぇな…、ちゃんと伝わる言葉で話せよ』

『っ、おい! イドゥンギン⁉』

「……ギッッ⁉ ギョアァァッ‼」


 ……驚いた。子供を守っていたアヌンナキの内一人が手から波動を放って、襲撃者を森の外れまで吹き飛ばしちゃった。


『“何、あのアヌンナキ……凄ッ”』

(……、アヌンナキの事は後回しだ。俺と視覚の共有段階をA+まで上げろ。こっちでもあの襲撃者を解析にかける)

『“……ん。お願い。そういうことはあなたの得手だし”』


 身を屈めながら森の中を移動する。素早く動いて、エリマキトカゲみたいな怪人の下へ辿り着いた。さて、見たところ間違いなく……。


(染色体数がアヌンナキとは違う。間違いなくリターナーのステージⅠだ。天醒元はディロフォサウルスだな)


 ディロフォリターナー、ね。ジュラシッ●パークに出て来るあれかぁ。


(何処から紛れ込んだ……、お前の開いた扉からのワケがないか。だとすると……いや、考察は後回しだな)

『“バエファバシェキジャやるしかないか”————ふぅ。それじゃあ』


 ずっと着ていたフード付きマントを脱いで、意識を人へと切り替える。使うのもアヌンナキの言葉ではなく人の言葉に。そして、腹部にアークオルテギアを浮かび上がらせる。ここからは竜の怪人ケムシェではなく、柏崎真理那として戦わせてもらおう。


(本当なら、アヌンナキとリターナーの戦い方の差異を調べる絶好の機会でもあるんだが。それに奴ら、お前が言っていた医療組合の連中だろ? 例の姿を使わずにそのまま戦えば、解決の糸口の為のアヌンナキ同士の繋がりとか得られそうじゃないか?)

『そうだね。でも、地球の化け物をこっちの世界に残しておきたくないし————、何より』


 ちらりと、強化した視力で先程の街中を見る。


『………いや、やっぱりいいや』







 異世界ニビルに連れてこられたディロフォリターナーは、吹き飛ばされ混乱する頭を振って立ち上がった。

 初めから明確な自我があったわけではない。何処で誕生したのかもわからない。そもそも自分が何者かさえ理解していない。得てして全てのリターナーとは、結局そういうものだった。

 だが、謎の女の声が思考を蝕み続けている。この嘲笑うかのような声の主が自分を異世界へ招いたのだという事は理解した。


 ————天醒皇にお目通りを希え。


 それがどういう意味なのかは分からない。しかし、この言葉が自らの体に新たな力を与えているのは分かった。

 体から溢れる力に酔いしれるディロフォリターナーは、目に付いた生命を片端から殺したいという衝動が強くなっていた。元々、生命を殺す以外の目的が無いリターナー達だが、このディロフォリターナーの殺戮衝動は度を超えていた。


「ギャギャッ、ギュイッ……、ジャジャッ?」


 ようやくディロフォリターナーは気が付いた。近くに生命持つ者がいることに。だが、その者が持つ生命の形状は————、どこかが違っているように思えた。


【アークオルテギア!】


 腹部に奇妙な道具が埋め込まれた怪人が、ディロフォリターナーの近くに立っている。


『……やぁ。悪いんだけど、君を倒させてもらうよ』


 四本角の女怪人が、穏やかな落ち着いた口調で死を宣告する。彼女は左手に持っていたテウルギアキーを起動させ、鍵に宿った竜の力を呼び醒ました。


【ミラガイア!】


 一体の恐竜の幻影が現れた。地の底から響くように唸りを上げる、鱗に覆われた喉。其れは巌に四つの脚で立つ、美しき大地の名を冠する剛き剣竜『ミラガイア』。


CALLINGコウリン…!】


 ミラガイアテウルギアキーをアークオルテギア左側面部に備え付けられた『ジオセントリックキーホール』に挿し入れて捻ると、バックルの両サイドから展開された鎧皮構築機構内蔵ベルト『ディバインドレヴォリューショナー』が腰に巻かれる。

 さらに真理那は、右手に持ったもう一本のテウルギアキーのスタータースイッチを押した。


【オキサライア!】


 一体の恐竜の幻影が現れた。彼の竜が天に掲げるは、王冠の如く聳える背鰭の帆。其れは輝く十二と墜ちし一の星の徒弟を従えし、天空の救世龍『オキサライア』。


NOW-LOADロー-OKオーケー?  NOW-LOADロー-OKオーケー!】


 オキサライアテウルギアキーをアークオルテギア右側面部に開いた『ヘリオセントリックキーホール』にセットすると、バックル内部から、肉体変化を齎すシステムの……一風変わったふざけた待機音声が流れ出す。


NOW-LOADロー-OKオーケー? NOW-LOADロー-OKオーケー!】


 準備ができたとでも示すように、繰り返されるその言葉。四本角の女怪人は拳を握り締めて息を整え、そして、何かにとしていた。



 オキサライアテウルギアキーを捻りバックルの形状を変化させると、四本角の怪人……真理那は十字を切った右腕を地面と水平に広げた。


『—————


 怪人の目元から頬にかけて、涙が流れるように浮かび上がる鎖型の模様。恐竜たちの幻影が真理那の周囲を舞う。剣竜ミラガイアのエネルギー体は地面に潜ると真理那の体を鉱石で包み、棘竜オキサライアは天に昇ると一つの門を形成した。


【Open the Heaven’s Gate!】


 天の扉が開かれて現れたオキサライアの頭が大顎を広げ、結晶体で覆われた真理那の身を噛み砕く。


【アームドリターナー!ソルアーク!】


 周囲に撒き散らされる結晶。沈む太陽に照らされ、万華鏡のように虹色の光を放って消えていく。それは幻想的な光景だった。そんな幾重もの光の粒子の中から、竜の鎧を纏った人影が現れる。


【In the beginning, the lord created the heaven and earth.】


 肉体変化が起きたことで引き締まり、男性的になった体を覆う黒いボディスーツには、金色の鎖状のエナジーラインが光る。胸当てや四肢を守る装甲は赤い紋様が入った銀。そして、額と目元から天に向かって伸びる四本の鋭い角サゴマイザーアンテナと、後頭部から生えた一枚の鶏冠フィンブレード。角張り吊り上がった大きなアイレンズが、太陽のように赤く輝いた。


 アームドリターナーソルアーク マリナフォーム。


 天と地の神の名を継ぐ竜、その力を纏う天醒者が、今まさに異世界へと光臨こうりんした。


『君の懺悔を聴こう。悔い改めろ』

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