第3話 アヌンナキ
————『アヌンナキ』。
別の宇宙に存在する惑星『ニビル』に住まう竜人型の種族。雑食性の生物で、恐竜に近しい特徴があるが、光合成によって生命活動維持に必要なエネルギーを賄う事もできる。
知能は非常に発達しており、量子コンピュータと同等の情報処理能力を有する。そのため生体信号は量子を用いている。肉体は強靭で、炭素化合物と埒外物質の融合した骨格を有し、老化による寿命が存在しない、常に成長し続ける超生物。次元干渉を用いた攻撃でも掠り傷をつけるのがやっと。概念攻撃は全て無効化される。各部族で生息地域が分かれており、平野や山中、海辺に住む。そして、星をあがめる宗教がある。必要以上の殺生を禁じる穏健派と、粗暴な急進派がいるという。
(※柏崎真理那のフィールドワークのレポートより、一部抜粋)
惑星ニビルの中心地とも言える、
三方を山という天然の城塞に囲まれた中つ国、その数ある関所の内の一つに、旅装束の女がふらりとやって来た。門番を務める怪人たち…、戦士階級のアヌンナキの二人が槍の石突で地面を叩き、その女の足を止めさせた。
『コハドゥ。バイジュフェファゴキエンギフュブ』
『“アー……。キエドシェミゲンダドドアボマ。バイジュディゲバンムショベショ?”』
『ヒイ。エファマハバフドンフュフキエドドフ、カファエファバンフォバ、オエガドゥ』
『“イシュ。アシェンコシュ……”』
フード付きのローブを被った女怪人は顎に指をあてて考え込むと、思い出したように手を叩き、着ていたマントの裾の内側を
そこから取り出されたのは、蝋で栓をされた十数本もの硝子瓶。彼女はその内一本の栓を爪で突き刺して抜き、門番たちに中身を確認するよう促した。
『……ウグ。バボシャ。ダンイユデベフェドクブンバデ、フシカバンフュカラム』
『エファビキマガコブ。バフュキエドシェフドエファベア、ガオハウ、ファムウ?』
『“エファベア? ……ドゥンコボダエガドオバンムバ、ガドゥガンコアバンドンエディ…”』
旅装束の彼女は、再び言葉を詰まらせた。それを可哀そうに思ったのか、守衛である二人の怪人たちは関銭として上質の酒が彼女から得られたこともあって、穏やかな口調で助言をしてきた。
『ダンイドゥ、カダヘドドエゴシャンデエエファベア、カファ?』
『“シャンデエ……エファベア。ドゥングキファ。キアフェケダアフュドゥン、フュブブ?”』
『キエドコバカゲバンガンデエ、ガイユベ。ダンシャンデエエファベア、バンイドゥフュマエキオハ、ドゥヒシシビンシシハミコシュ』
『“……ム。イドゥバンケア”』
一言二言の会話であったが、丁寧に敬意を示す所作をして関所の門を潜っていく四本角の女怪人。年若い声からして成人して間もない女なのだろうと思っていた守衛たちは、ちらりと見えた彼女の
『……ダ、ダンムコバ。マイ……』
『ア、アア……』
どうやら、人間も怪人も、顔の整った美人を目の当たりにした時のリアクションは同じであるらしい。
■
空旅の足となる翼竜や、陸地を八本脚で駆ける馬型生物が繋がれた広場を通り抜けると、そこは物品と活気であふれかえっていた。様々な出店が立ち並び、アヌンナキたちの言葉が飛び交っている。
『いらっしゃい!今日はクルクル族から仕入れたホシンシマバが安いよぉ!』
『畑でとれたてのキゲンフュはいらんかね、ヤシェデもイユシェブも揃ってるぜ』
『シャビシュンブで作ったお菓子は如何?やぁお嬢ちゃんにお坊っちゃん、一個お試しで食べてみるかい?』
『彼氏君、そっちの恋人にカラム族の硝子細工はどうだね。山向こうの連中、口はあれだが細工の腕は請け合いだよ』
ガヤガヤ活気のある街中を、他のアヌンナキ達にぶつからないように気を配って歩く。でも、こういう下町情緒ある光景は嫌いじゃない。子供も大人も老人も、人間と姿かたちが違えど、生きる世界すら違えど、似たような営みをしていると知れて興味深い。
『“ふふっ。
アヌンナキの言葉についても問題なし。この世界に来て初日はチンプンカンプンではあったけれど、数時間かけて文法とか構文とかの成立過程を逆算して、約二時間でネイティブ並みに喋れるようになりました。いやぁ、地球上に類似する語派はあまり無かったから面倒だったけど、スピードラーニングには結構自信あるよ。
『“それじゃあ、今後の方針を決めておこうかな……。しばらくはこの街に留まって、この部族の文化や生活に馴染んでおきたいんだけど”』
(こっちもお前の意見に異存はない。というか俺、地球にいるしかないしな)
道端でやっていた露店の試食をモグモグしながら、独り言を喋るように、星海と会話をする。もちろん人ごみから離れた場所で、小声で話す。
あ、この試食のフライ美味しい。魚肉の旨味を損なわない豊富な香辛料のアクセントが絶妙。マヨネーズっぽいソースも地球の安物なんかじゃ比較にならない深みがある。こっちのフライは……お! 貝、いやカタツムリっぽい。食感もグッドでお洒落な高級ビールが欲しくなる味~、ウマウマ♬
あーあ、仕方が無かったとはいえ、関所越えの税として前貰った異世界製のお酒を全部渡したのは痛い出資だったなぁ……もっと飲んでおけば良かった、くぅッ!
『“……んぐ。御馳走様。だけど問題がここで一つ。……持ち合わせのお金がない”』
(あー……。地球から金になりそうな物資持ち込もうにも、レアメタルなんぞそっちの世界じゃゴロゴロしてるもんな……。そっちの医療とか科学技術、地球と比べてはるかに上だし)
それ。物陰からアヌンナキたちの様子を見てれば自ずと分かる。生活水準が普通に高いんだよね、この世界。
平民階級じゃ着衣の慣習はほぼ無いらしいけれど、装身具を付けている者はちらほらと見受けられる。この装身具、一見すればブレスレットや数珠にしか見えないのだが、実は数百ゼタバイトの情報を処理できる携帯機器だったりする。通信速度異様に早くて笑ったのは良い思い出。どのくらいのお値段か聞いてみたら、なんと日本円換算で約1666円。うわ、やっっす…。何でこんなキリが悪い数なのかは、この星の住人は60進法を使ってるからです。
ガラス細工も普通の工芸品じゃなくて、シリコンウェハーで出来た集積回路の機能もあるし。これにアヌンナキの生体電気を流せば思い通りのことできるっぽいんだよなぁ。形変えたりとか、重力無視して飛ぶとか。あ、今出店のところからガラスの鳥みたいなのが飛んでいった。良い雰囲気の男女のアヌンナキの間を行ったり来たりして、……あらま。恋文が刻まれたガラスの板に早変わり。
(……。なぁ、金ができたらで良いんだが。ああいうの俺も欲しいぞ)
『“……よっしゃちょっと待ってて。金稼ぐ手段は考え付いたから”』
■
地球のエアーズロックを思わせる巨岩が数多く鎮座する街の外れの一角。その中でもひと際大きい鈍色の岩肌に、数多くのアヌンナキ達が集まっている。その中心部には、岩肌を直接削り出して作られたのか、外壁に目地が一切ない巨塔があった。
『“ここが、門番の人達が言ってたシャンデエ、か……”』
シャンデエ。意味合いとしては一座やギルド、カルテル……同業組合ともいうべき寄り合いだったはず。このコミュニティに属していれば、アヌンナキ各部族間の協定により、各地に自由に移動しての活動が可能になる。成人したアヌンナキは自分の能力に沿った職のシャンデエに属することが多いとか。それに、シャンデエに属していれば関所越えの際の関銭も免除されたりと、良いこと尽くめであるらしい。
『ふむ。だから、人と人が行き来する交通の拠点でもある、と』
(……、あの翼竜たちが吐く火って、確か体内にある生体核融合炉でできたもんだよな……。攻撃手段としてはオーバーキルすぎやしねぇ?)
『“ま、
(生物の枠組みとしての話だよ……)
ん。それはそう。星海の言う通り、この星の動植物、地球に一体でもいたら世界滅亡の危機になるもんね。ほぼ小さくなったゴジ●だし。そしてそんな怪獣をアヌンナキたちは日々狩っていたりするのだ。逞しい。
『“えぇと。門番の人が言ってた商人組合と、……私の目的とも合致しそうだし狩人組合も登録しておこう”』
塔の中のひんやりとした岩の床を歩いて、案内所を通り組合の受付に入ると、室内ではあくせくと働く白いケープを付けた雌型アヌンナキ達がいた。それはもう慌ただしく、パピルスにペンで情報を記入したり、水晶タブレットをタップして名簿を管理していたり。うーむ、事務仕事に追われるのはどの世界でも似たり寄ったりなのだろうか。
『“……お忙しいところ恐れ入りますが、登録良いですか?”』
『はい、全然大丈夫ですよ。お名前を伺っても宜しいでしょうか?』
名前……、名前かぁ。流石にマリナ、って名乗るのはちょっとアレだよね。アヌンナキ風の名前でもないし。……それじゃあ。
『“はい。ケムシェと言います”』
(
ふっふっふ。偽名だけど良いネーミングでしょ。
(……。まぁ、センスがアレなお前にしては良い方じゃないか?)
ん、私の何処がセンスアレって……え、どのへん?
(アークオルテギアの特殊機能、特にやたらテンションの高いシステム音声とかだよ)
……、……? 私の趣味だけど? 良くない?
(何でお前の趣味嗜好、戦極●馬とか檀黎●とか●ョージ・●崎みたいなヤツの系譜なんだよ……)
■
————、まぁ、そんなこんなでシャンデエに登録は完了した。
『ではこちらが発行させていただいたシャンデエに属する証になります』
『“これは……”』
カウンターに置かれ、私に差し出されたのはスマートフォンより少し小型な水晶片。透明で厚みは5㎜程だけど、下部分に楔形文字記号の電源ボタンがある。
『はい。使い方もご説明させていただきますね。そちらは
(あー成る程。異世界もの定番のステータスプレートみたいなもんか。ハハッ…、レベルとかスキルとか出て来るのか?)
うーん。でも、そう言うの見て思うのだけど、レベルだのスキルだのステータスだの、人の潜在能力を文章化・数値化するってそんな簡単なもんかなぁ?ゲームじゃないんだし。
『このシェバアでできることですが、各シャンデエからの連絡事項やお役立ち情報、得た給金残高の通知・確認や、その給金の引き出しが可能となっております。また、各地のシャンデエ支部での組合員限定の支援、また量子証明書の発行や特定騎獣への騎乗許可、医療機関ご利用の際の健康保険証としてもご利用できます。もしも紛失された場合は、登録情報の悪用を防止するため当シャンデエ本部や各支部にて機能停止のお手続きをお願い致します』
……お、おぅ。異世界で予想外の単語が聞こえて来たんだけど。
(……機能拡張されたマイナンバーカードだなコレ)
『“な、成る程……、それは便利ですね。登録どうもありがとうございました”』
『はい。またのご利用をお待ちしております。また何かあればお声がけくださいね』
それじゃあ、貰った水晶タブレットを弄らせてもらおう。スマホみたいなものだし、こういうのは慣れだよ、慣れ。この塔……シャンデエ統括本部の案内看板で、どっか良い場所ないかな。お、図書室ある! この場所で
よし、それじゃあ————。
■
『“————、成る程。大体分かった”』
通りすがりの世界の破壊者のようなことを言いつつ、水晶タブレットを石のテーブルの上に置く。
『“それじゃ、悪いことしますがちょっとお目こぼし下さい……”』
この世界の生物や鉱物の素材を使って作った簡易式ハッキングツールを使って、と……。お、予想よりも手強いファイアウォールを、これをこうして、消し飛ばして……、よし、開いた。
ネットワーク上の個人情報や依頼などに目を走らせる。うーむ、下は成人したての若者から、上は数千歳超えの現役バリバリのベテランまで、シャンデエに登録しているアヌンナキの何と多いことか。これじゃあ手がかりを見つけるのが何時になるか分からんぞ。先にこの世界での金稼ぎに着手した方が良いか……?
……、ん?
『“ふぅん? ……ねぇ星海。この情報、どう思う?”』
(……、リターナーの発生プロセスに近いな。調べてみて損はなさそうだ)
この情報を持っていたのは、薬師組合と医療組合か。丁度いい、流し見したシェバアの情報によると薬師組合は狩人組合と合同で遠征の依頼があったはず。第三級資格を持つ狩人ならついていけるらしいから、早い所昇級試験を受けて私もそこに混ぜてもらおうっと。
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