Episode7 本当の家族

「それじゃあ、また来るね。」


「うん。ラナン、お仕事頑張って!」


「応援してるよ〜。」


 店の前、荷物をまとめたラナンをメイカとローズの二人が見送っていた。

 素材集めの日から五日間工房でゆっくりしたラナンは、遂に今日ダンの元へ帰ることとなった。


「うぅ…ママ。寂しいよぉ…。」


「私も寂しいけど、これからはたまに会えるから。リスのぬいぐるみも綺麗にしたから、一緒に頑張って!」


「うん…頑張る!」


 ラナンの持っていたリスのぬいぐるみは、ところどころ解れたり千切れそうになっていたため、メイカが補正したのだ。

 そのためぬいぐるみは新品の様に綺麗になっており、ラナンは目をキラキラさせて一緒に寝ていた。


 それを思い出したのか、ラナンはしばらくぬいぐるみを抱いていた。そして、満足した頃にリュックに戻して二人に向き直った。


「それじゃあ、そろそろ行くね。」


「気をつけて。いつでも帰って来て良いからね。」


「うん!じゃあまたね〜!」


 ラナンは元気に手を振ると、走って階段を駆け下りた。その背中を見つめる二人には、しばらく寂しそうな空気が流れていた。




 ◆◆◆◆◆◆◆


「ただいま戻りました。」


「ん?おぉラナン。おかえり。」


 相変わらず軋む扉を押しながら入ると、早めの晩御飯の時間だったのか調理をしているダンの姿があった。


「遠いから疲れたでしょ。晩御飯が出来るまで荷物を片付けたりしてゆっくりしてて。」


「はい、ありがとうございます。それでは失礼します。」


 それだけ会話すると、ラナンは部屋に戻った。色々と貰ってしまったので、片付けに時間がかかることは容易に想像出来た。


 ぬいぐるみやイヤリングなど、貰った物を机に並べておく。

 イヤリングはメイカが要らないと言うので、せっかくならと貰って来た。そもそもメイカには上位互換である聖属性の指輪があるのだ。


 他にも氷魔法を使って本物の雪を降らせるスノードームや、土人形の形をしたキーホルダーの様な物も貰った。


 スノードームは、たまたま暑い日と被っていたために少しでも冷えないかとメイカが取り出してきたものだ。もっと良いものが作れる気がするから要らないと言われて押し付けられた。


 キーホルダーは、外で走り回る土人形を見て可愛いと呟いたのを聞かれていたのか、次の日メイカから渡された。

 完全に親バカである。


 たった一週間で貰いすぎだと思うが、そこはメイカが一流ゴーレム使いだと言うことで納得する事にした。


 スノードームを起動したりキーホルダーをリュックに着けたりしてしばらく遊んでいると、ダンがラナンを呼ぶ声が響いた。ラナンはそれに返事をして、テーブルまで向かった。


「さて、晩御飯を食べようか。」


 テーブルに着くと、そこには沢山の料理が並べられていた。鳥を丸焼きにしたものや、ローストビーフの様な物。飲み物に果実を絞ったドリンクがあり、デザートに均等に切られた果物があった。


「凄い…なんでこんなに豪華なんですか?」


「そりゃ、ラナンが無事に帰って来たからだよ。八年一緒に暮らしていた娘が、一週間も居ないと凄く寂しくてね。帰ってきたお祝いは豪華にしようと思ったんだ。」


「私のため……ありがとうございます!」


 契約の事を知ったことで、自分のために用意したと言う言葉をしっかり感じ取れたラナンは、気づかない内に涙が溢れていた。


「だ、大丈夫かい?体調が悪いなら後日でも…。」


「…大丈夫、ちょっと嬉しくて。…突然ごめんダンさん、これが本当の私なの。今までずっと上手く距離感が掴め無くて…。他人行儀になっちゃってた。今更だけど…これから、これでも良いかな。」


「そっか、それが本当の…。うん、良いよ。それが良い。本当の家族みたいだ!」


「…ママから聞いたよ。必死にお金を集めて、それでも足らない分をどうにかならないかって頑張ったこと。これまでもママにお肉を届けていた事…。こんな人に買われて、私はとっても幸せ!ありがとう、ダンさん!」


「…そっか、聞いたんだね。一応気づくまでは私からは言わないつもりだったけど、…それだけ君を造って欲しかったんだ、私も君と家族になれて良かったと思ってるよ。」


「ダンさん…。」


 いつの間にかしんみりとした空気が食卓に流れていた。それに気づいて二人が空気を変えようとする。


「そう言えば、お願いがあるんだった。」


「ん、なんだい?」


「ママの工房にお肉を届けに行く係に、私も入れてくれない?」


「うん、それは勿論良いよ。ただ、毎回だと穴が大きすぎるから月一くらいにしてね。」


「分かった!ありがとうダンさん!」


 憑き物が落ちたラナンは、今までで一番の笑顔になって笑った。

 そして、ご飯が冷めちゃうと慌てて食べだしたラナンを、ダンは微笑ましく見ながら自分も食事に手をつけた。




 ◆◆◆◆◆◆◆


「ママ、お肉持って来たよ〜!」


「ありがとうラナン。倉庫の冷蔵庫にお願い出来る?」


「うん!」


 それから、お肉を持ってくる係として時折ラナンの姿が見える様になった。

 メイカとローズに良いところを見せようとこれまで以上に頑張るラナンに影響され、現在狩猟会はかなり熱気を持っているらしい。


 毎回数匹の成果があり、たまに大物を狩れる時もある様だ。

 それによってラナンも更に実力を伸ばし、大物を一人で狩ることもしばしば。


 ダンとラナンは帰省後からさらに仲を深め、周りから見ると本当の家族の様に見えると噂される様になった。


「……!」


 今日もラナンは狩りをする。



【Chapter2 狩猟娘はお人形】〜完〜

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る