第8話 異変

青木から預かった鍵で部屋に入る。

生暖かく、どんよりとした空気が通村の全身を駆け巡る。


青木の話では、ここの住人は浴室で亡くなったそうだ。

高齢の女性。死因については聞いていない。


部屋の間取りは1LDK。

独り暮らしをするには充分な広さだ。


「ミナミ、俺は嫌な予感しかしないんだが・・・」

『わかってる。あんたには視えていないだろうけど、部屋の中をウロウロしているわよ』

「マジかよ・・・」

視えないのが幸いなのか、気分は悪いが老婆の姿は視えない。

『洋二、こうなった以上、腹を括りなさい』

喝を入れているのか、ミナミなりに気をつかっているのかわからないが、いつもの口調とは明らかに変わっていた。



『うーん、今のところ、何かしてきそうな感じはしないんだけど・・・』

夜になっても、これといっておかしなことは起きていない。

「信じていいのか?」

『だって、お婆さんが布団で寝ているだけなのよ』

布団さえ視えない通村は、部屋の中を隈なく見渡した。

だが、何も見えない。

ハウスクリーニングが住んでいるので、部屋の中は綺麗で、シミのようなものも見当たらない。

通村は寝袋とスマホだけしか持ってきていない。

がらんどうとした部屋の中で、通村は不安を覚えながら、スマホを弄るくらいしかできなかった。


「ミナミ、やることがないから俺はもう寝る」

『もう寝るの?まだ九時を過ぎたばかりなのよ。今どき、小学生だってこんなに早く寝ないわよ』

「そう言われても、この部屋にはテレビとパソコンがない。スマホを弄るのにも飽きた」

通村はミナミの答えを待たずに寝袋に体を潜りこませた。


はっきり言って酷く居心地の悪い空間だ。胃もたれのような気持ち悪さがおさまらない。しかし、引き受けてしまった以上、それに通村の退去を免れるためには尻尾を巻いて逃げ出すことなどできなかった。


ミナミは何も話し掛けてこない。

通村は瞳を閉じて時間が過ぎるのを待った。



『ちょっと!起きて、洋二!起きなさいって!』

通村の鼓膜を破る勢いでミナミが大声を出す。

「なんだよ。うるさいなあ・・・あっ・・・・」

通村は即座に状況を理解した。

明らかに部屋の中の空気が変わっている。

重苦しく、頭がふらつく。気を抜くと、気絶してしまいそうになる。


『やっぱり、何もないってわけにはいかないみたいね』

ミナミの声が震えているように聞こえる。

「あ、痛い。ミナミ、何が起きているんだ?」

通村は頭を押さえながら、ミナミに問い掛けた。

今、この部屋で何が起きているのか、そのことがわかるのはミナミだけだ。


『おばあさん、寝ているだけかと思ったんだけど、急に起きて部屋の中をうろつき始めたの!とにかく、洋二は私の言う通りに動いて!」


訳アリのアリ。やはりそう簡単にいくはずがなかった。




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