第6話 騎士としての誓い
電気を消して眠ろうとするが、今日のデートが嬉しかったからなのかなかなか寝付けない。ぼんやりと薄暗い天井を眺めていると、四月の高校の入学式を思い出した。
大きな桜の木の下で滝川麗は夜桜公太と向き合っていた。
滝川は174㎝、公太は152㎝なのでどうしても目線の変化はある。
滝川は目線を下げ、公太は目を上に向けた。
無言の空間に高まる緊張。これから何が起きるのかとギャラリーが集まってくる。
桜の木の下は告白の定番の場所である。滝川はこくりと生唾を飲み込み、羞恥で赤くなるのを懸命に抑え、彼女は片膝立ちになると言葉を紡いだ。
「高校生活三年間、夜桜公太君……君を守り続けると誓わせてください。あなたの騎士として」
「滝川、もういいよ僕を気にしなくても」
「それはできないよ。私は君の傍にいて君を守り続けたい」
「どうして? 君は僕よりもずっと優秀だし、つりあう人と付き合った方が幸せになれるのに」
「私は君といるときがいちばん幸せで、だからこそ守りたい。愛しているから」
彼の手をとって衆目を集めるのにも構わずに堂々と宣言する。
滝川が騎士らしく振舞うようになったのは中学からなので公太は見慣れているのだが、人が集まる前で堂々と騎士宣言をされるのはやはり恥ずかしく、顔を赤くしてそっぽを向いてから小さな声で了承した。
「もう、好きなようにして」
「ありがとう」
だが、どんな形であれ公太が認めてくれたことが滝川は嬉しかった。
騎士として彼を守り続けることができるのだから。
小学校の頃、公太に守られて以来、滝川は今度は自分が彼を守りたいと誓った。
かけがえのない幼馴染で親友で最愛のこの人を、何があっても守り幸せにする。
それが、滝川の考える騎士道だ。
回想から現実へと戻ってきた滝川はカーテンを開けて隣の家を見る。
彼女の部屋からは公太の部屋の様子がわかる。電気が消えているので寝ているのだ。
だが、夜中でも油断はできない。彼の家に泥棒が入ったら? 悪夢でうなされていたら?心配が次から次へと頭を巡るが深呼吸をして精神を落ち着かせる。
明日は九時よりも早く公太の家に行き、彼のためにおいしい朝食を作らねば。
起きてきた彼が喜ぶようなおいしい料理を。
九時になっても起きてこなかったら起こしに行こう。
明日の楽しみを想像し、英気を養うためにも今度こそ滝川は眠った。
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