第4話 エインヘリャール魔武術学園

 から5年が過ぎ 14歳になった僕は、〈エインヘリャール魔武術学園〉に途中入学のため、王都に向かっていた。

 〈学園〉は剣の道を志すなら、通らない道理はない。そう言いきっても良いほどの国内最高峰の学び舎だ。

 ちなみになぜ途中なのかというと、1年前の入学式当日、学校の所在地である王都行きの馬車が事故を起こした。

 もちろんそれに乗っていた僕は大ケガを負い1年の療養生活を強いられ、入学出来なくなってしまったのだ。これが現時点で、人生2番目の不幸だろう。

 だが学校側の配慮もあり、1年生の勉強に関しては家庭教師を付ける事、実技は学校で補習を受けるという条件付きで途中入学の資格を得たのだ。

 寛大過ぎる……寛大さの次元が違う。

 

「新顔の2年生かぁ……笑えるな……。」

 ちなみにアイレはもう学校生活を始めている。

 もちろん学年こそ違うが、優秀な妹の後追い……気が滅入る。

 今度は事故が起きない事を祈りながら、馬車に揺られて2時間ほどで王都に到着した。

  

 地元エレアとは比較にならないほど活気と、人に満ちあふれている。

 石造りの建物が多く立ち並び、その中でも大きく目立つ建物が二つ。

 ひとつは北の方、少し遠くに見える王城。

 もう一つが目的地である〈エインヘリャール魔武術学園〉。

 既に何人か僕と同じ制服の学生たちが歩いていて、その誰もが帯剣、武装している。


「直剣に……短剣、あっちはレイピアか。おお、槍背負ってる子も居る。」


 そう、この学園は"魔武術"の名の通り剣だけでなくあらゆる武器の扱いを、更には魔法まで学べるという超実践的フルコンタクト教育施設なのだ。

 王国の戦力を一手に担う〈鳥籠の騎士団〉の殆どが学園出身である事からも、その実績は推し量れるだろう。一体どんな人達と戦い、切磋琢磨できるんだろう。期待に思わず身震いする。

 

 僕は学園の門をくぐり、その中へと踏みこんだ。


 既に周囲からいくつかの視線を感じる。新品同然の制服を着た2年生なんて、鋭い人間なら遅かれ早かれ気付くだろう。

 

「誰だこいつは?」って具合だ。


 ちなみに学年はネクタイやリボンの色で識別される。青が1年生、緑が2年生、赤が3年生だ。

 そんな中、近づいてくる緑ネクタイの男子生徒が1人。茶髪をオールバックにしたガタイの良い男だ。

 

「よぉ、見ねぇ顔だな」

「やぁこんにちは。いい天気だね」

「いくつか質問をする。その答え次第じゃあ、今日のテメーの天気は変わるぜ」

 これマズイかな。挨拶を返しただけなんだけど。


「何処から来た」

「エレアって田舎さぁ」

 田舎も田舎、僻地と言って良い。王都ここと比べたら何処も大差ないかもしれないけど。


「得物は」

「タネも仕掛けもない、ただの片手剣だよ」

 大ウソ。僕のは特別製だ。


「名前は」

「アル・バスカー」

「バスカー………?確か1年に……」


 どうやらアイレは他学年にも名前が知れているらしい。兄として鼻が高いぞ。


「お話はもう終わりで?」

「ああ、はな」

 言うが早いか、腰から剣を抜き放つ茶髪。

 僕は上体を反らし、横薙ぎをスレスレで躱す。


「なるほど、〈学園ここ〉に来るだけの事はある」

「それはどうも……これはまだ続くかい?」

 正直あまり長引いて欲しくない。1年ぶりに神経を尖らして、今のでかなり疲れた。決めるなら一撃で……剣は何時でも抜ける。

 

「いや、正真正銘今ので終わりだ。」

「ようこそアル・バスカー、俺はガイア・センリー。学園はきっとお前を歓迎するぜ。」


「ああ、確定じゃないんだ」


「俺は歓迎する」

「それはありがとうね」

 同級生とは思えない貫禄のガイアから洗礼を受け、いよいよ学園生活が始まる。

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