第2話 再起

「アルさま〜、何時までそうしてるおつもりですか〜?」

 

 ドアを叩く音。聴こえるのは侍従メイドのブランの声だろう。

 特性鑑定の日から、かれこれ3日はこうして部屋に閉じ籠もっている。

 日課だった鍛錬もせず、食事も手をつけていない。何もかも無意味になった。

 

 「放っといてよ!」

 

 そう叫んだつもりだったが、もう声も出ない。

 ただずっと、ベッドの上で膝を抱えて座り込んでいた。

 もう消えてしまいたい。

 ぎゅるるる……と、腹の虫が鳴く。どれだけ消えたくても、何もしなくても腹だけは空く。

 それが3日となればなおさらだ。

 

 「…………」

 「アル様ぁ…… !」


 意を決して、否、空腹に耐えかねた僕は部屋のドアを開け、ブランの熱烈なハグで出迎えられる。

 白い毛並みの半獣人であるブランの力強いハグは、温もりと安心感、それと圧迫感を与えてくれる。

 背丈はそんなに変わらないのになぁ。


 「さ、さ!お食事の用意はできてますよ!」


 連れられるがまま、ふらふらと食堂へ来て、席に着く。

 運ばれてきたのは玉子入りのと、野菜スープだ。

 湯気が立ち、食欲をそそる匂いがする。思わずゴクリとつばを飲み込んだ。


 「まずは消化に良いものを、と思いまして」


 そういって料理を運んできたのはもう一人の侍従メイド、ノワールだ。

 彼女も半獣人で、こっちは黒い毛並みだ。背丈はブランより頭3つ以上高い。

 その背を越すのが、僕の密かな目標だったり。


 「いただきます……」

 

 おもむろにスプーンで、おかゆを口に運ぶ。

 熱い。けれどなにより、ずっと美味しい。

 熱さも気にせず、一気に掻き込む。次はスープだ。行儀は悪いが、器を持ち上げ飲み干す。

 口の周りは少しヤケドしたが、そんなのはどうだっていい。

 

 「あわわ、そんなに一気に食べては!」

 「おかわり、ございますよ」

 

 「……お願いしていいかな」

 

 満腹になったところで沸かしてくれた風呂に入り、3日分の汚れを落とす。

 流石にブランの、背中を流してくれるという申し出は断った。あのからかい癖は直して欲しい。

 ふと鏡を見ると

 

「あれ……髪が……」

 

 どうやらストレスで色落ちしたらしく、僕の緑髪は先端の方が白くなってしまっていた。若白髪ってこういう事なのか?

 湯に浸かりながら、これからの事に思考を巡らす。

 魔力特性が〈糸〉の僕に、家は継げない。今まで僕が受けていた教育は自然とアイレのほうにスライドするだろう。

 そうすると僕はフリーだ。今まで出来なかった事、例えば色んな遊びをしてみるのもいい。

 前と違って止める人もいないしね。けどそれはまた今度にしよう。


 今は〈こいつ〉の使い途を考える。

 掌から出る魔力の糸をじっと見つめながら僕は

「どう使ってやろうか?」

 そう、ひとり呟いた。

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