第2話 試練
朝、目を覚ました瞬間から、なんとなく胸騒ぎがしていた。普段なら、何も考えずにスマホを手に取るところだが、その日は違った。いつも通り、まずはニュースを確認してから日課を始めるつもりだった。だが、テレビの画面に映し出された映像は、予想外に衝撃的だった。
「緊急速報:昨日未明。調査したところ世界各地に99の塔が出現していたことが確認されました。」
その言葉を聞いた瞬間、思わず息を呑んだ。ニュースの画面には、世界中の空にそびえる異常な塔の映像が次々と映し出されていた。それぞれの塔は、まるで異次元から突如として現れたような、不気味で巨大な建造物だった。今まで見たこともない光景に、ただただ驚くしかなかった。
「各塔の難易度は明らかにされており、現在、各国の軍隊や特殊部隊が塔の攻略に挑んでいます。しかし、攻略に失敗し、犠牲者が続出している模様です。」
テレビのキャスターの声が続いた。
「今朝、難易度13位に位置する『戦争の塔』において、自衛隊10万名と戦車部隊が投入されましたが、全員が死亡、戦車や武器も全部破損したことが確認されました。塔内では激しい戦闘の痕跡が見つかり、詳細な原因解明が急がれています。」
その言葉が耳に入った瞬間、背筋が凍るような気がした。戦争の塔…自衛隊1万人が壊滅し、戦車まで無力化されるような場所。まるでこの世のものとは思えない。だが、それだけでは終わらなかった。
「さらに、古代文明に詳しい専門家によって20位以内に位置する塔が異常なレベルに攻略難易度が高いとされていて「王の塔」と、今日定められ、『近づいてはならない』と警告されています。民間人が安易に近づかないよう、対策を講じる方針が取られました。」
『王の塔』…その名前だけでも、どこか恐ろしい響きがあった。だが、ニュースの報道はそれでもまだ続いていた。まさに世界が戦慄していることが伝わってきた。
よし、いつも通り早めに学校に着くと、ニュースで見たあの巨大な塔がすでに校庭に立っているのを見た。何も言うことができなかった。恐ろしいほどに異次元的で、ただただそこに存在するだけで、圧倒的な存在感を放っていた。
担任の先生が、少し緊張した面持ちでみんなに話しかける。
「これから、皆さんにはこの塔の攻略をお願いすることになります。もちろん、安全面には十分配慮しています。心配しないでください。」
けれど、俺の心の中では違和感が広がっていた。この塔に関して、何かが間違っているような、あるいは、俺の直感がそう警告しているような気がしてならなかった。
塔の足元に近づくと、ふと視界に入り込んだのは、塔の上部に浮かび上がる文字だった。
「塔の名前:幸運の塔」
「難易度:極」
「難易度順位:18位」
その文字を見た瞬間、胸がギュッと締め付けられるような感覚が走った。直感的に、何かがおかしい。なんで、この『幸運の塔』が18位に位置していて王の塔であることに教員や生徒は気づいていないのか?という不安があった。なぜ、一瞬だが、塔に入りたいという謎の気持ちに強く引き寄せられるような気がしたのか、それが分からなかった。でも、ある種の恐怖が全身を駆け巡り、「絶対に近づいてはいけない」と思った。
俺は思わず声を上げていた。
「皆、入るな!」
その叫び声は、他のクラスメートたちが塔に近づく直前に発せられたものだった。けれど、その時にはもう遅かった。みんながあまりにも自然に歩み寄っていく姿を見て、心の中で焦りがこみ上げた。なぜ、あんなにすんなりと塔に足を踏み入れてしまうのか。俺の警告は届かなかったのか?
そして、その時、塔の入り口から一筋の光が漏れ、巨大な影が揺れ動き始めた。何か、異常な気配がした。
「だ、だめだ! 待って!」
俺は必死に叫んだが、どんどんと近づいていく仲間たちの足音は、どんどん遠ざかっていった。まるで、俺の警告が虚しく響いたかのように。
その瞬間、塔が揺れ始め、次々と異変が起きた。暗い影が塔の中から湧き出し、光を吸い込むように、その場の空気が一変した。
「うわぁぁぁ!!」
その声と共に、俺の目の前で仲間たちが突然、消えていったように見えた。ほんの一瞬の出来事だった。恐怖と焦燥感が、体を硬直させる。何が起こったのか分からない。だが、確実に言えるのは、何か恐ろしいことが始まったということだった。
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